テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第162回は、2月28日に放送された日本テレビ系トーク番組『おしゃれイズム』(毎週日曜22:00~)をピックアップする。
2005年4月のスタートからまもなく16年になるが、さらに日曜22時台のトーク番組としては、前番組の『おしゃれカンケイ』、前々番組の『オシャレ30・30』と合わせて34年超の歴史を持つ。世代を問わず日曜夜の定番となっているが、現在プライム帯で希少なトーク番組であり、しかも30分番組であるなど、特筆すべきポイントは多い。
■女子アナ的ポジションの藤木直人
番組は上田晋也、藤木直人、森泉の3ショットで、「今夜のゲストは女優の森七菜さんです」と迎え入れるシーンからスタート。すかさず上田が「初めてだよね? おいくつ?」「まだ19なの?」「何かすごい落ち着いた感じ。(同じ森でも)森泉より全然落ち着いてるよ」と、矢継ぎ早に声をかけて番組を動かしていく。
さらに、森七菜の「『中学生みたいだね』ってよく言われます」という言葉に、藤木が「あどけないイメージもありますよね」とフォローを入れたり、「10代のままでいたい。大人になりたくない」という森七菜に、森泉が「楽しいよ、大人は」と語りかけたりするなど、2人のコメントをはさむタイミングも絶妙。森七菜が「大人なんだけど、少女と女性を行き来できるような人になりたいです」とオープニングトークをきれいに締めくくれたのも、互いのキャラクターや役割を熟知している3人のコンビネーションあってのことだろう。
続いて藤木が「3行プロフィール」と書かれたフリップを持ち出して進行を始める。当番組の藤木は、イケメン俳優というより女性アナウンサーのような立ち位置なのだ。その3行とは「出身地は?」「10代の頃の自慢」「特技は…オーディション」であり、大分出身で、昨年2月まで東京まで通っていて、どんな作品に出演していたのかなどを紹介。ただ、放送後Wikipediaに掲載されるような基本情報のコーナーなのだろう……と思っていたら、「国語が得意で1回だけクラスで1番を取ったことがある」という後のコーナーにつながるコメントもあった。
出演作紹介の流れから話は芸能界の交友関係へ。上田から「共演で仲良くなった人は?」と聞かれた森七菜は神木隆之介の名前を挙げ、「ギターを教えてもらったりとか、一緒に絵を描いたりとか。すごく長いメールをくれて、『天気の子』のときも新海監督(作品)の先輩でもあったので、技術的なこともいろいろ書いてくれて。そのあとに『でも七菜だから絶対大丈夫だよ。頑張っておいで』って書いてくれて、神木さんの言葉に勇気づけられて自信を持っていけました」と語った。序盤のプロフィールに続いて、中盤にちょっとした美談をはさむところがいかにもこの番組らしい。
藤木による2つ目のトピックスは、「幼少期のころのお写真をお借りしました」。3歳当時の写真が3枚公開され、左上に「ヤンチャな少女時代」というテロップが表示。「ご飯を全然食べない」「スーパーでごま豆腐を勝手に持って帰ってしまう」「お母さんが毎回返しに行って『ごめんなさい、ごめんなさい』と言っていた」というエピソードが明かされた。
■プライベートトークの価値は低下
さらに、藤木から3つ目のトピックス「自宅でのルーティーンを撮ってきていただきました」では、モーニング、愛犬・テツコと遊ぶ、ナイトと3つのルーティーンを披露。モーニングルーティーンの音声が撮れていなかったり、テツコとハイテンションで遊ぶが懐いてなかったり、話しはじめたら弟がドライヤーを使い出したりなど、主に脱力系の笑いを誘うコーナーだった。このようにプライベートを見せるコーナーはトーク番組の定番だが、これだけSNSが普及した今かつてのような価値はないだけに難しさがうかがえる。
ただ、ナイトルーティーンのエピソードは、それだけで終わらなかった。よく聴くアーティストにSaucy Dogを挙げた上で、「『スタンド・バイ・ミー』という曲があって、私の地元の友だちたち『ミジンコ』の間でも話題沸騰。あのときの思い出って、いろんな情景が思い浮かぶので、とても思い出の1曲」とコメント。これは何気ないコメントに見えたが、実はクライマックスへの伏線だった。
藤木から4つ目のトピックス「何でも今、気になるものがあるとか」でコールドプレスジュースの実演と試飲をしたあと、5つ目のトピックス「こんな写真をお借りしました」に突入。小学生時代からの親友グループ「ミジンコ」のメンバーで撮った写真がピックアップされ、森七菜は生き生きとした表情で「家族ですね。みんなでザコ寝するときもありますし」「高校卒業してからは一度も会ってなくて、卒業旅行もやめちゃったので」「今年の年越しはみんなでしました。リモートで」などと語った。
さらに、そのうちの2人とスタジオを電話でつないでのトークタイムに突入。親友の内藤さんは森七菜のことを「アホ」「授業中は常に落書きしてた」「(先ほど言ったクラスで1位を取ったというエピソードは)ウソです。私には1ミリも頭のいいイメージはないですね」と、言いたい放題で仲の良さがうかがえた。
また、内藤さんは「やっぱりモテていた?」という質問には、「そうですね。9割の男の子は1回、七菜のこと好きになってると思います。みんな七菜を通りますね」と即答。それを聞いた森七菜が複雑な笑顔を浮かべると、すかさずカメラがクローズアップしたが、これは「ウチの番組は他では見せないこんな表情が見られますよ」という演出だろう。
■親友たちはリモートではなく電話出演
その後、もう1人の親友・大原さんが「森七菜からリクエストされて作ったオムライスを残された」というエピソードを披露したほか、2人とも森七菜の出演作を「見ないですね」とバッサリ斬りつつ「『この恋あたためますか』(TBS系)のキスシーンだけ見ました」と話して笑いを誘った。相手の顔が映されるリモート出演ではなく電話なのが、ゲストを徹底的にフィーチャーし、その一挙手一投足を30分間映し続けるこの番組らしい。たとえば、MCが必ず取材に行く『A-Studio+』(TBS系)と比べると違いは一目瞭然だ。
最後に、藤木が6つ目のトピックス「思い出の映像をお借りしました」を切り出し、ミジンコのメンバーたちとカラオケ、花火、ダンスなどを楽しむ当時の姿が流された。さらに「小学生のときに大分へ引っ越してからいつも一緒だった」「いつも応援しているよ For nana」というテロップが表示され、ミジンコのメンバーたちが1人ずつコメントしていく。
「七菜がしている仕事はどうしても世間の評価がつきまとってくる仕事ですが、七菜は七菜らしく頑張っていってください」「伝えたいことってもう本当に『会いたい』しか正直ないんですよね」「今年こそみんなで計画しちょったけどなくなってしまった卒業旅行に行きたいなって思います」「私たちの中にもう今さら遠慮とか必要ないから言いたいことは何でも言ってください。東京で頑張ってね」
これらの言葉を聞く森七菜の笑顔や涙は画面の右帯にすべて映されていた。そして、BGMは先ほどお気に入りの曲として紹介された『スタンド・バイ・ミー』。「またどっかで久しぶりって いくつになっても変わらないなって いつか笑い合おう それまで別々の道になっても」という現実とリンクした歌詞が表示される見事な伏線回収だった。
最後のCMをはさんで、森七菜から主演映画の番宣タイム。上田から「この映画見る?」と聞かれた親友の内藤さんは「一度持ち帰って検討します」と返して番組のオチをつけた。一方で大原さんは「もう公開日に行くしかないですね」とフォローを入れてバランスを取り、森七菜が「ありがとう」と笑顔を浮かべたところで番組は終了。
■「あおり」「じらし」のない上品な30分
30分番組ながら、6つのトピックスあり、プライベートの友人登場あり、複数の伏線回収ありと、台本と編集のクオリティは極めて高かった。そもそも、民放のゴールデン・プライム帯は1時間番組が大半を占める中、30分番組というだけでも希少なのだが、長年飽きられずに存続できているのは、こんな密度の濃さがあってこそのものだろう。
エンタメが多様化し、トークだけで魅了することのハードルは確実に上がっている。そんな状況の中、地上波のトーク番組は、表現の幅、尺の制約、スポンサーへの配慮などの点でネットコンテンツに比べて圧倒的に不利だ。しかし、『おしゃれイズム』は例外かもしれない。長年の放送実績と資生堂の一社提供によるブランド価値など、視聴者の信頼があるからベーシックな内容でもやっていけるのではないか。
その一社提供こそが当番組における最大のポイントなのかもしれない。美女たちが共演するCMも含め番組は終始、上品なトーンで統一されていて、笑いを取り、涙を誘うために過剰な演出をすることはない。たとえば「あおり」や「じらし」のような現在の視聴者の嫌うものは見られず、下品なトークテーマは選ばないなど、番組がブランドイメージを大事にしている様子が伝わってくる。
SNSの発達で企業としても視聴者から苦情を受けるリスクが高くなっている中、一社提供の番組がプライム帯にあるだけでも貴重。制作のしがらみがあり、人気者や大物を呼ぶためには、番宣出演者が多くなってしまうのは仕方ないところもあるだろう。ただ、その割合を減らすほど、視聴者の信頼も、資生堂のブランド好感度も、今以上に上がるはずだ。
■次の“贔屓”は…SMAP解散から4年、中居正広がダンスと向き合う『ダンスな会』
今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、6日に放送されるテレビ朝日系バラエティ特番『中居正広のダンスな会』(18:56~20:54)。
SMAP解散から4年あまり。中居正広がMCとして久々にダンスと向き合う特番が放送される。日本の超一流たちが「このダンスがすごい! MY BESTダンス」を紹介していくというが、その顔ぶれは三浦大知からDA PUMPのISSAとKENZO、熊川哲也、マイケル・ジャクソンまで幅広い。
中居と言えば、SMAPメンバーの中でも屈指のダンス好きで知られるが、「本当に楽しい収録でした」「踊りたくなってきましたよ」とコメントしているように、生き生きとした姿を見せてくれるのではないか。学校の授業で行われ、SNSでバズるなど、ダンス需要が飛躍的に高まっているだけに、業界としての注目度も高い。
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