ブレークスルー感染とは
どの感染症に対するワクチンでも、その効果は100%ではありません。ワクチンを接種した後でも感染する可能性があり、それを「ブレークスルー感染」と呼びます。新型コロナワクチンの場合では、2回目の接種を受けてから2週間くらいで十分な免疫の獲得が期待されますので、それ以降に感染した場合にブレークスルー感染と呼んでいます。免疫ができても感染してしまう訳
一度罹ると「二度罹り」しない感染症もあれば、何度も繰り返し罹る感染症もあります。前者には麻疹や水痘(水ぼうそう)などがあり、後者にはインフルエンザやロタウイルス胃腸炎などがあります。これらの感染症にはワクチンがありますが、前者ではブレークスルー感染は少なく、後者ではしばしば見られます。その違いは何なのでしょう?麻疹や水痘では鼻や喉の粘膜からウイルスが侵入した後、扁桃や近くのリンパ節でウイルスが増え、ついで血液の流れに乗って全身にウイルスが拡がってから(ウイルス血症)、発熱や発疹などの症状が現れ発病(発症)します。つまりウイルスが入り込んでから発病するまでの間に、10日や2~3週間の潜伏期があります。既に罹っていたり、2回ワクチンを接種したりして免疫ができている人では、血液中の抗体がそこに入って来たウイルスをブロックしてくれるので、発病しなくて済みます(図1)。
抗体の量が少なくなってしまった人でも、感染して、ウイルスが鼻や喉の粘膜から侵入した時点で刺激を受けて抗体の産生を再開し、ウイルスが血液の中に入って来る頃までには十分な量の抗体が出来上がります。そのため、二度と発病しないのです。
(図1)
一方、インフルエンザの場合、鼻や喉の粘膜に侵入したウイルスは、そこですぐに増殖を始め呼吸器粘膜を傷害して、数日で発病(発症)します。ワクチンを接種して血液中に抗体があっても、呼吸器粘膜の感染を防ぐことは難しいし、発病を防ぐことも十分ではありません。でも抗体は肺の中に滲み出てきて肺炎を起こさないようにブロックすることで、重症化を防ぎます。
新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じように、鼻や喉の粘膜で増えて数日で発病します。さらに肺にまで感染が及ぶと重症化の恐れが出てきます。血液の中の抗体は鼻や喉の粘膜では効き目が弱く、感染を防ぐ効果はあまり強くありませんが、肺では重症化を防ぐ効果を発揮します(図2)。
このように、一般に呼吸器感染症を防ぐワクチンの効果は、「重症化阻止効果>発病阻止効果>感染阻止効果」という序列があります。
(図2)
デルタ株になって増えたブレークスルー感染
ウイルスは変異を繰り返し、何か自分に有利な変化を遂げたものがやがては主流のウイルスになります。デルタ株のウイルスは、感染力が拡大しただけではなく、ワクチンによって獲得された免疫が効きにくいと考えられています。ファイザー社や武田/モデルナ社のmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは非常に有効なワクチンであり、従来株のウイルスに対しては、発病を防ぐ効果94~95%に加え、イスラエル(ファイザー社ワクチンを使用)においては感染そのものを防ぐ効果が91.5%もあると報告されていました(※1)。
しかし、その後イスラエルではデルタ株にほぼ置き換わってしまい、その結果、発病や感染を防ぐ効果が64%まで下がってしまいました(一方、入院を防ぐ効果は93%と高いレベルを維持しています)(※2)。
流行が拡大すれば、次々に変異が起こり続ける
ウイルスの変異はある一定の確率で生じ、流行拡大によって感染者が増えれば増える程、変異を繰り返して行きます。その中で感染力が拡大したり、ワクチンによる免疫から逃れる性質を獲得したりした変異株が生じると、やがてはそれに置き換わってしまい、コロナとの戦いはいつまで経っても終わりません。厄介な変異株の出現を食い止めるために最も有効な手段は、ワクチン接種を含む感染予防対策を徹底し、流行の拡大を防ぐことです。
接種後、長い時間が経過すると増えていくブレークスルー感染
実際に罹ってしまったりワクチンを接種したりすることで、免疫を獲得して抗体ができても、使う機会がなければ段々抗体の量は少なくなっていきます。抗体の量が少なくなっていても、感染後は直ちに作り出すので重症化を防ぐのには間に合うことが多いのですが、発病や感染を防ぐのには間に合いません。先に紹介したイスラエルにおけるワクチンの有効性(発病や感染そのものを防ぐ効果)の低下は、デルタ株に置き換わってしまったことに加え、2回の接種が終了してから半年前後経ってしまったことも影響していると思います。そこでイスラエルを含む幾つかの国々では、ブレークスルー感染が増えて来たことを受けて3回目の接種を始めています。
ブレークスルー感染は軽症です
これまで述べましたように、ワクチン接種を2回済ませた人のブレークスルー感染はデルタ株に置き換わった後で増えて来ましたが、ワクチンによって重症化を防ぐ効果は高いレベルで維持されています。米国CDCのデータに基づき「ワクチン接種を済ませた人が、新型コロナウイルスのブレークスルー感染のために亡くなる恐れは0.001%未満」と報告されています(※3)。ワクチン接種率を高める意義
新型コロナウイルス感染症で重症化する人が病院に溢れてしまうと、本来であれば入院して十分な治療を受けることで救える命が失われる恐れがあります。また、病院が患者さんで溢れてしまうと、その他の病気や怪我で緊急に対応しなければならない患者さん達の命も危機に晒されます。しかし、多くの人たちがワクチンを接種していれば、医療は本来の機能を維持することが出来ます。また、ワクチン単独で流行を食い止めることは出来ませんが、他の感染対策と一緒にワクチン接種が進んでいくことによって、社会の中での流行を食い止めることにも大いに役に立ちます。
ですから、ワクチン接種は非常に重要です。
ワクチン接種した人もこれまで通りの感染対策を
ワクチンを接種していれば、ブレークスルー感染が起こってもほとんどの場合、重症化を免れます。しかし、感染することはあるし、感染しても発病しないことも多いので自分ではそれと気付かないままでいます。もしマスクを着用しないで会話をしたり、3密の場所に出入りしたりすると、他の人にうつしてしまう恐れがあります。ワクチン接種が十分に進んでいない間は、その人達に感染が拡がらないように、これまで通りの感染対策を続けていただきたいと思います。
(参考資料)
※1:Impact and effectiveness of mRNA BNT162b2 vaccine against SARS-CoV-2 infections and COVID-19 cases, hospitalisations, and deaths following a nationwide vaccination campaign in Israel: an observational study using national surveillance data
※2:Explanation About the Effectiveness of the Vaccine for Coronavirus in Israel
※3:A Statistical Analysis of COVID-19 Breakthrough Infections and Deaths
からの記事と詳細 ( 「ワクチン接種後のブレークスルー感染」 なぜワクチンと感染予防対策の両方が必要なのか|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省 - 新型コロナワクチンQ&A )
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