Thursday, June 10, 2021

新たな可能性、「プロフェッショナル派遣」は日本を救えるか? - ITmedia

 日本の終身雇用制度は数年前から崩れ始めている。

 安定性には優れているが柔軟性に欠ける正社員雇用のみでは、激しい市場変化にもう十分な対応はできない。特に、企業の進化に伴って発生する新規事業の立ち上げ、システムの導入、合併などのイレギュラーな状況では、社内に必要なスキルとノウハウを持っている人材がいないことが多い。既存社員のみでどうにか賄うことが難しくなっている。

 同時に、労働者のニーズも多様化している。IT業界を筆頭に普及してきたフリーランスという働き方が他の職種でも増加、さまざまな理由で正社員ではない働き方を希望する人が増えている。そのため、企業は正社員という形に固執せず、有効な労働力を柔軟に活用しながら、企業に必要なリソースを補うことが求められている。

画像はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

労働力を補うための、外部リソースの活用

 マクロレベルで考えると、国内総生産を増やすには労働人口を増やすか、1人当たりの生産性をテクノロジーの駆使などで上げるかという2つの選択肢しかない。企業レベルで生産性を上げる場合も同様である。

 しかし、日本の15〜64歳の人口は右肩下がりであることに加え、2007年から超高齢社会に突入している。

労働力人口・就業者数の推移/出所:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書−令和時代の社会保障と働き方を考える」図表1-3-3より

 女性の就業率は年々上がってきてはいるが、専門性を求めないパートタイムのポジションも多く、根本的な人材不足解決への貢献度は大きくない。IT領域では、海外から高度人材を採用するケースも多く見られるが、それ以外の領域ではまだハードルが高い。

 厚生労働省は、これまで副業や兼業に対して消極的だったが、2020年10月に発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」でアプローチを大きく変えた。

 社内のリソース不足を解消するにはいくつかの方法がある。

 1つ目は、業務の外注だ。専門の企業に外注することで必要な知識・スキルを期間限定で確保できる。一方、コストが莫大になりがちで、セキュリティの問題や指揮命令ができないデメリットもある。

 2つ目は、派遣社員だ。柔軟性の高い労働力の確保を目的に広く活用されている。必要なときに必要なスキルを持っている人材を期間限定で雇用できる。指揮命令が可能な点は、外注と比べメリットだ。

 しかし、日本の派遣は一般に、業務の専門性が低いことが多い。日常業務のサポートには適しているが、高い専門性を必要とするプロジェクトには対応できない。

 3つ目に、専門性が高く、期間限定で、指揮命令も行える、外注と派遣のいいとこ取りをした外部リソースがある。これが「プロフェッショナル派遣」だ。プロフェッショナル派遣という言葉の認知度自体はまだ高くないが、近年企業からのニーズが増加している。

プロフェッショナル派遣とは何か

 プロフェッショナル派遣の活用が最も進んでいるのは、外資系企業と日系のIT企業だ。

 外資系企業では、業界や職種を問わず、幅広い分野でプロフェッショナル派遣が活躍している。コロナ禍で、業界によっては大きな打撃を受けた企業もあったが、IT企業、コンサルティングファーム、製薬メーカーなどでは相変わらず人材のニーズが非常に高い。

 リモートワークが話題になり、多くの企業が積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)とサイバーセキュリティに投資した。そうした背景から、デジタルコンサルタント、プロジェクトマネジャー、インフラエンジニアなどの需要が高まった。

 これまで完全オフィスワーク、定時時間が固定されて働き方の柔軟性が低かった企業も、ニューノーマルに適応する必要がでてきたため、就業規則変更のための人事スペシャリストのニーズも急増した。企業のさまざまな部門において、次の3カ月、6カ月がどうなるのか見えない中、とにかく一番求められたのは人材に関する柔軟性だった。その点で、期間雇用のプロフェッショナル派遣が重宝された。

 プロフェッショナル派遣は一般的な派遣と大きく異なり、業務の専門性が非常に高い。一つの職種にフォーカスし、そのスキルと経験を複数の企業で高めてきた専門人材だ。

 ジョブ型雇用の外資系企業で同じ年数働いてきた正社員と能力に遜色なく、社員と肩を並べて自立して仕事ができる。与えられた課題は指示を待たずに解決する。マニュアルがなくても、自分で解決策を探したり立案したりできる。

 プロフェッショナル派遣には、マネジャー以上のレベルの人材もいる。大手外資系企業の第一線で活躍していた女性が、子育てを理由に柔軟性の高い“派遣”という形態を好んでいることもある。

 最近特に増えているのは、外資系企業に長く勤めていた50代後半、または60代のシニア層だ。CFO、コントローラー(経営管理)、人事部長など、経営に関わるレベルまでキャリアを積んできた高度人材である。彼らは、セカンドキャリアとなる新しい働き方を希望し、プロフェッショナル派遣という働き方を積極的に選択して働いている。

 外資系企業はもともとスペシャリスト採用(専門職採用)を文化としているため、プロフェッショナル派遣の役割や考え方はごく自然であり受け入れられやすい。これが、外資系企業でプロフェッショナル派遣の活用が進んでいる理由だ。そして、外資系企業で活躍するチャンスが多いため、バイリンガルのプロフェッショナル派遣も多い。

 ここ数年になってようやく、日系企業でも専門職の期間雇用ニーズが増加し、プロフェッショナル派遣が普及してきている。

人材不足が起こる背景と、プロフェッショナル派遣の活用シーン

 市場の変化以外にも人材や労働力不足のリスクは多数存在している。そして、欠員が出るのは突発的だったり、その穴埋めに緊急を要したりすることもある。どのようなシーンで社内のリソース不足が発生し、プロフェッショナル派遣が活用されているのか。代表的な例が以下の6つである。

1.突然の退職による欠員

 小規模の企業であればあるほど、1人でも急に抜けてしまえば業務が回らなくなり、早急な人員の確保が必要になる。

2.育児休暇・中期的な休職者

 育児休暇を取得する社員のポジションを、半年〜1年間程度カバーする必要がある。女性はもちろんのこと、男性の育児休暇取得率も6年連続で上昇していると、厚生労働省の調査で判明した。

3.高度な専門スキル・豊富な経験の不足

 即戦力の正社員採用ニーズが高まっている一方、市場の人材不足や一部の優秀な人材の取り合いで、思うような採用が進んでいない企業が多い。

4.正社員の補填・リスクヘッジ

 正社員は会社の基盤となるため、採用にはとても慎重になる。特に、役職が上がれば上がるほど採用に要する時間は長くなり、半年〜1年は適切な人材が見つからないこともある。不安要素を残したまま急いで採用するより、一時的に外部リソースで補填し、時間をかけて、ミスマッチのない正社員採用を目指す方が企業のためになることも多い。

5.期限付きプロジェクト

 新しいシステムの導入、合併に伴う統合業務、新商品発売時のプロモーション、開発案件など、プロジェクトが終了すれば人員が不要になるため、正社員として採用ができない。

6.従業員数の制限

 会社全体や部門での従業員数が制限されており人員を増やせない一方で、ビジネスの拡大に伴い業務量が増加、既存の従業員のみで業務をさばききれない。

社員の離職を緊急補填した、60代シニア派遣の活躍事例

 一般的な派遣では見られない、シニアのプロフェッショナル派遣事例を最後に紹介したい。米国に上場している家電メーカーの日本支社で、経理・財務のトップが30日予告で急に退職した。経理担当者はもう1人いたがジュニアレベルで、月次決算などを担当できる後任がおらず、急きょハイレベルの経理・財務のスペシャリストが必要になった。

 そこで、外資系企業での経理・財務経験が豊富で、決算業務などができる、60代前半、バイリンガルのプロフェッショナル派遣を提案した。その方はたった数日の引き継ぎ作業後、月次決算、税務申告、英語でのAPACオフィスとのやりとり、米国本社への報告など、全ての業務にスムーズに対応した。緊急での採用だったにもかかわらず、これほどマッチした人材を見つけられたことに、採用企業もとても驚いていた。

 雇用形態にとらわれず、必要なときに必要な労働力を確保する柔軟な姿勢を持つことが、今後の企業の人材活用力を左右するだろう。

著者紹介:星野ファビアン

エンワールド・ジャパン株式会社 コントラクト・プロフェッショナルズ事業部 アソシエイトディレクター 

ドイツ出身、大学と大学院で日本経済、政治、社会を研究し卒業後来日。2012年エンワールド・ジャパン入社。派遣を中心に、業務委託など有期雇用の採用・転職支援を専門とするコントラクト・プロフェッショナルズ事業部に配属。経理・財務、SCM・購買からスタートし、現在は金融業界とIT業界に特化。プロジェクトに必要なプロフェッショナル派遣の紹介をメインに行っている。企業と働く人の双方にとって新しい働き方を積極的に提案。リーダーシップと異文化コミュニケーションのスペシャリスト。


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