伝説的なコメディー俳優を2022年の「スーパーボウル」のテレビCMに起用した暗号資産交換業大手の米FTXトレーディングが、11月に経営破綻。その後、CM内でFTXなどの「歴史的発明」に懐疑的な態度を取った俳優、ラリー・デヴィッドが「正しかった」というミーム(ネット上で拡散する話題)がネットを揺るがした。暗号資産関連企業が打ったこのテレビCMは、ハイプ広告(過剰な宣伝)がブランドにもたらす巨大なリスクを浮き彫りにした。
ラリー・デヴィッド氏は過去に1度も、毎年2月に開催される米プロフットボールNFLの王者決定戦「スーパーボウル」のテレビCMに出演したことがなかった。今では試合の何週間も前から先行映像や予告編が流れるのは普通だが、2022年はそうした前触れもなかった。暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングは昔のやり方に立ち返り、実際の試合の最中にいきなり伝説的なコメディー俳優のCMを流して視聴者を驚かせた。
広告会社デンツーMB(電通マクギャリー・ボウエン)とともに制作され、「Don’t Miss Out on Crypto(クリプト=暗号資産=を見逃すな)」と銘打ったCMは、人気番組の「ラリーのミッドライフ★クライシス」や「となりのサインフェルド」の制作で知られるラリー・デヴィッド氏が車輪やフォーク、トイレ、民主主義、電球、食器洗い機、ソニーの「ウォークマン」、そしてもちろん、FTXといった歴史的に重要な発明に懐疑的な態度をとる様子を描いた。
スーパーボウルで話題をさらった暗号資産関連企業
このスポットCMのおかげで、FTXは22年のスーパーボウルの最中に最もリツイートされたブランドの1つに入り、米USAトゥデー紙の広告ランキング「アドメーター」から「最もコミカルなCM賞」の評価さえ獲得した。
代表的な暗号資産である「ビットコイン」は、このCMが放映される約3カ月前に史上最高値をつけていた。それ以来ずっと、じわじわ下げ続けている。一方、「テラUSD」と関連暗号資産「ルナ」の暴落や暗号資産ヘッジファンドであるスリー・アローズなどの経営破綻のせいで、22年はこのカテゴリーの企業やサービスにとって厳しい1年となっている。そこへ同年11月初旬、FTXの創業者兼CEO(最高経営責任者)のサム・バンクマン・フリード氏が辞任し、同社が破産申請した。そこで登場したのが、「ラリーは正しかった」というミームだ。
FTXの劇的な盛衰については片付けなければならない問題が山のようにあるが、その1つは、同社および大多数の暗号資産ブランドの広告の大半が、少なくともこの1年、セレブとハイプ広告(過剰な宣伝)を駆使し、暗号資産への投資を歴史的に賢明な策として描いてきたことだ。暗号資産を有人飛行や宇宙旅行の発明と比べながら、俳優のマット・デイモンが語った(今や悪名高い)言葉を借りれば、「幸運は勇者に味方する」というわけだ。
22年のスーパーボウルには米クリプト・ドット・コムも登場し、22年のレブロン・ジェームズ選手と03年の同選手が登場するスポットCMを流した。若い方のレブロンが「ハイプは行き過ぎているのか? 僕は準備ができているのか?」と問う。すると22年のレブロンが「すべてを教えることはできないが、歴史をつくりたいのであれば自分で決断しなければならない」と答える。「自分で調べろ」というこの少し遠回しなバージョンにもかかわらず、うたい文句はやはり明確だった。「幸運は勇者に味方する」ということだ。
言外の意味ははっきりしていた。電車は駅を出発しようとしており、暗号資産が約束した地へ向かう電車に乗りたければ、切符を今買わなければならない――。莫大なお金が失われた後に、暗号資産への投資を歴史的に賢明な策として描くこのトレンドは、見栄えのいいインチキセールスマンとしての広告業界の悪評を高める一方だ。
セレブと広告会社の双方にリスク
広告業界は、ブランドパーパスの広告やブランドの透明性の重視に比較的熱心に取り組んだ(また、そうしたことを盛んに議論した)業界で、無償の公共広告や幾多の社会的な大義のアドボカシー(擁護)広告も手掛けてきた。見え透いた賞狙いとはいえ、この手の創作物は、それまで中身よりもスタイル重視をうたってきた(メディアと職業双方としての)広告の伝統的な評判も塗り替えてきた。FTXのCMに象徴される、暗号資産にまつわる広告業界の仕事のおごりは、こうした崇高な努力をすべて台無しにする。
暗号資産関連企業を宣伝するために大物セレブを起用することを取り巻く議論は1年以上前から実施されており、少なくとも21年6月13日に有名女優のキム・カーダシアンが「イーサリアムMax」を絶賛するインスタグラム・ストーリーを投稿して以来、ずっと議論が続いてきた。米調査会社モーニングコンサルトの研究によると、あの広告は米国人の21%に視聴され、英金融行為監督機構(FCA)はこれを「歴史上、最大の視聴者リーチを達成した金融プロモーション」と呼んだ。カーダシアンは22年10月、お墨付きの見返りに報酬を得ていたことを、この投稿を視聴した人々に開示しなかったことで、米証券取引委員会(SEC)から126万ドル(約1億8396万円)の罰金を科された。
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