Wednesday, October 20, 2021

池袋暴走事故 遺族も苦悩 量刑下げた「SNSでの過激な社会的制裁」 - ITmedia

産経新聞

 東京・池袋で2019年、乗用車が暴走し母子2人が亡くなった事故では、実刑判決を受けた男に対し、会員制交流サイト(SNS)などで苛烈な批判が渦巻いた。判決では、こうした状況が「過度な社会的制裁」とされ、量刑が減軽される理由の一つとなり、遺族は「事故の教訓を伝える妨げになってしまった」と苦悩を打ち明けた。専門家は、SNSにより過剰な正義感からくる「私的制裁」が行われやすくなっている危険性を指摘する。

量刑減軽の理由に

 《上級国民爺さん》

 《消えろ》

 自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われて禁錮5年の実刑判決を受け、今月収監された旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三受刑者(90)に、SNSではこんな投稿が相次いだ。

 事故後、任意捜査の末に在宅起訴された飯塚受刑者は、公判中は一貫して「ブレーキとアクセルの踏み間違いはなかった」として無罪を主張。批判は激化し、インターネット上だけでなく、受刑者の自宅周辺を街宣車が周回して「日本国民の恥」などと罵声を浴びせたり、自宅周辺に動画投稿者が来るなどした。

 判決では、こうした一連のバッシングが「過度な社会的制裁」とされ、「(被告側に)有利に考慮すべき事情の一つ」として、量刑が求刑(禁錮7年)を下回る一因となった。

 飯塚受刑者は判決後「暴走は私の勘違いによるブレーキとアクセルを間違えた結果だったと理解した」などとするコメント発表、初めて自らの過失を認めた。

教訓伝わらない

 「遺族として処罰感情は当然あった。量刑が減らされたのは悲しく思う」

 妻の真菜さん=当時(31)、長女の莉子ちゃん=同(3)=を事故で亡くした松永拓也さん(35)は、飯塚受刑者へのバッシングが量刑に影響したことについて、こう振り返る。

 その上で松永さんは「(飯塚受刑者への批判が過熱し)本来伝えるべきものが伝わらなかったのではないか、と感じた」と打ち明けた。

 「事故の悲惨さを多くの人に知ってもらい、再発防止につなげたい」との気持ちで公判に臨んでいたが、飯塚受刑者個人に対する批判ばかりがクローズアップされ、高齢者による事故を社会全体で考える契機とならなかったのではないか、という危機感を感じたという。

 「健全な議論はなされるべきだと思うが(飯塚受刑者が)脅迫されるようなことは望んでいなかった。彼の公判での態度は確かに不誠実だったが、交通事故は誰でも加害者になりうる。加害者をバッシングすれば、事故がなくなるわけではない」と訴えた。

「怒り」を強調

 今回の事故で波紋を広げた過剰なバッシング。国際大グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授(ネットメディア論)は「興味本位というより、『凄惨(せいさん)な事故を何とかしなければ』という正義感が根拠となっているものが多かった」と指摘する。

 山口准教授によると、SNSでは、言いたいことのある人の意見だけが表面に出るため、冷静な声よりも「怒り」のような感情が強調され、拡散されやすい傾向があるという。

 山口准教授は「表現の自由は担保されなければならないが、たとえ正義感であっても、人格否定や行き過ぎた誹謗(ひぼう)中傷は誰に対してでも許されない、という認識を広めることが重要だ」と強調した。(塔野岡剛)

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