Tuesday, August 24, 2021

衛星にスペースデブリがぶつかって崩壊。地球低軌道が密すぎる… - ギズモード・ジャパン

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2021年3月18日、中国の衛星「雲海1号2星(Yunhai 1-02)」が崩壊し、謎の死を遂げました。当時は理由がまったく分からなかったものの、最近になって旧ソ連製ロケットの残骸と衝突した可能性が濃厚となってきました。

地球の低軌道を巡る人工物は年々増えている一方。このような事故も今後増えていくのでしょうか…。

衛星の滅び方

もちろん前例がなかったわけではありません。稀ではありますが、空中分解した衛星は過去にもあったことはありました。

たとえば日本が2016年2月に打ち上げたX線天文衛星「ひとみ」は、人為的ミスとプログラムの不備により打ち上げからわずか6時間半で空中分解しました。さらに恐ろしいことに、つい数週間前にロシアの実験棟「ナウカ」が国際宇宙ステーションにドッキングした際も、スラスターの誤作動により危うく「ひとみ」の二の舞になるところだったのです。

崩壊したのではなく、撃ち落とされたのでは? という説も浮上しました。実は、中国自らが2007年に自国の運営停止した気象衛星を衛星攻撃兵器(ASAT)で撃ち落としており、その際砕け散った破片は何百ものスペースデブリ(宇宙ゴミ)と化して国際的な懸念を招きました。インドも2019年に同じようなことをしており、同様にスペースデブリを地球低軌道上にまき散らしています

また、稀ではありますが、衛星同士の衝突も報告されています。2009年にはイリジウム社の通信衛星「イリジウム33号」がロシアの軍事通信衛星「コスモス2251号」と衝突。NASA曰く「この種の事故にしてはこれまでで最も著しい断片化を記録し」、10cm以上の大きさのスペースデブリが1,800個以上もばらまかれたそうです。

中国の「雲海1号2星」は、2019年9月に打ち上げられてからわずか2年未満で不可解な空中分解を起こしました。事故が起きてから4日後の2021年3月22日、アメリカ宇宙軍の第18宇宙管制飛行隊(18th Space Control Squadron)は異例のツイートを発信し、雲海1号2星の崩壊を以下のように伝えています。

第18宇宙管制飛行隊は、2021年3月18日07:21UTC/協定世界時に、雲海1-02の崩壊を確認しました。崩壊に関連した21個の破片を追跡しており、現在も調査中です。

衛星とスペースデブリの不幸な顛末

この報告を受けて、雲海1号2星もなにかと衝突して崩壊したのではないか? と考えたのがハーバード・スミソニアン天体物理学センター研究員のマクドーウェル(Jonathan McDowell)氏でした。彼は第18宇宙管制飛行隊のデータが記載されているSpace-Track.orgの目録を丹念に調べ上げ、軌道上デブリ「1996-051Q(48078)」についてのある奇妙なメモを発見しました。そのメモには、この軌道上デブリが「衛星と衝突した」と記載されていたのです。

Space-Trackの目録が本日更新され、物体48078, 1996-051Qについて「衛星と衝突」との新たなメモが。これは新しいタイプの情報入力で、ほかの衛星に同様のコメントが添えられているのを見たことがない。深掘りしたほうがよさそう

マクドーウェル氏はこのようにツイートしています。そして言葉どおり深掘りしていった結果、メモにあった軌道上デブリが旧ソ連のゼニット2ロケットの破片だったことを突き止めたのです。

さらに、ゼニット2の破片が衝突した衛星とはまさに雲海1号2星だったことがその後の調査で明らかになりました。データを分析した結果、雲海1号2星とゼニット2の破片は2021年3月18日にお互い1km以下の距離にまで接近していたことがわかり、しかもその接近点はちょうど第18宇宙管制飛行隊が指摘していた場所と一致しました。

また、マクドーウェル氏は「衝突後に確認されているデブリ物体は今のところ37個。おそらくもっと出てくるだろう」ともツイートしています。そしてこの事故が過去10年間に確認された軌道上の衝突の最たる例であったにも関わらず、雲海1号2星は完全に破壊されていないそうで、今でも軌道修正を行なっているともツイートしています。

マクドーウェル氏の忠言

この見事な謎解きをしてくれたマクドーウェル氏に、米Gizmodoがインタビューしました。

彼の話してくれたところによれば、デブリ物体48078の正確な大きさはわかっていないものの、おそらく5cmから30cmほどの幅だろうとのこと。そして、その程度の小さな物体と衝突した場合、衛星はダメージを受けながらも「完全には崩壊していない」と考えられるそうです。さらに、地球低軌道上にはこのような小サイズの物体が増えてきているため、「今後はこのような衝突がもっと頻繁に起こるでしょう。実際、一年に一度の頻度で起きている」とも説明してくれました。

実際、使用済みの衛星同士がぶつかりそうになった事例も報告されていますし(赤外線天文衛星「IRAS」とアメリカ海軍調査研究所の「GGSE-4」衛星が2000年1月にニアミス)、今年の6月には国際宇宙ステーションで現在も使用されているロボットアーム「Canadarm2」がスペースデブリに貫かれて穴が開いてしまった事故も。

これらの事故が物語っているのは、スペースデブリ問題がいかに切実かということです。

スペースデブリの脅威はリアルです。今後衛星の数が増えると共に、今回の雲海1号2星のような事故が増えるでしょうし、それよりももっと稀ではあるが深刻なケースも増えてくるでしょう。

アメリカ宇宙軍は今後も雲海1号2星の崩壊の末路を調査し、目録を作成し続けていくそうですが、この衝突についての正式な調査結果は公開されないかもしれないそうです。それにしても、雲海1号ってまだ動いているって本当なんでしょうか? 「もしかしたら追跡ミスかもしれないですけどね」とマクドーウェルさん。真意にたどり着くにはいくつものハードルがありそうです。

深刻化するスペースデブリ問題

Image: NASA

欧州宇宙機関(ESA)の見積もりでは、現在地球低軌道を周回しているスペースデブリの数は、1〜10cmの大きさのものがおよそ90万個、10cm以上の大きさのものがおよそ3万4000個と言われています。

これだけの数のゴミが地球を取り巻いている中、もっとも懸念されているのは「ケスラーシンドローム」と呼ばれる連鎖反応です。これはまるで雪だるま式に、最初は小さかった衝突が回数を重ねるごとにどんどん大きくなっていってしまう現象。恐ろしいことに、雲海1号を崩壊させた今回の衝突がほかの衝突を誘発し、さらにたくさんのスペースデブリを作り出してしまいかねないそうなのです。仮に雪だるま式に衝突が繰り返されたら、今後たくさんの低軌道衛星が破壊され、やがては低軌道そのものが使えなくなってしまう状況になる可能性も出てきます。

そんなことになってしまう前に、スペースデブリに関する国際条例を制定し、宇宙ゴミを片付けなければ…。

Reference: 日経新聞, AFPBB, 経済産業省(PDF), NASA
Image: NASA

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