
不倫は刑事罰の対象ではありません。日本では姦通罪は1947年に廃止されました。にもかかわらず芸能人や著名人の不倫があたかも犯罪であるかのようにメディアで大々的に取り上げられ、受け手も関心を寄せている。こんな社会は異常です。
もちろん海外でも不倫はありますが、あくまでゴシップメディアが扱うもの。女優のアンジェリーナ・ジョリーはブラッド・ピットと不倫の末に略奪婚したにもかかわらず、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の特使を務めています。一方日本では、不倫を行うと番組から降板させられたり、出演したCMが打ち切られたりすることが珍しくありません。
不思議なことに、小説やドラマ、マンガといった創作の分野では、世論は不倫に寛容です。『失楽園』『昼顔』『黄昏流星群』も発禁・放禁になるどころか人気を博しました。これは、たばこにまつわる表現が世論の圧力と忖度で委縮し切っているのと好対照。不倫を扱う作品に規制がかからないのは、そうすると売れなくなるから。詰まるところ、みんな不倫モノが好きなのです。
それなのに芸能人が不倫をすると「けしからん」とたたき始める。糾弾の対象となるのは、おおむね中堅クラス。無名の新人ではニュースバリューが乏しいためカタルシスが得られないし、大御所では支障がある。ちょうどいい層を恣意(しい)的に狙っています。また、本質的に演技の質や話芸、スポーツの実力などと関係のない私事を取り上げて針小棒大に扱うのもおかしな話です。
実は、この構図は中世ヨーロッパの魔女狩りと酷似しています。当時の記録によると、魔女裁判で告発されるのは、村で評判の美男・美女が多かったそう。人気をひがんだ周囲の同性が「こいつは魔女集会に出席していた」「毒薬を作っていた」などと事実無根の告発を行い、血祭りに上げるケースが少なくなかったのです。もちろん、王侯貴族などの権力者は魔女裁判の対象にはなりません。ちょうどいい獲物を恣意的に狙っていたのです。
16世紀以前のヨーロッパでは経済成長が100年で10%、1年あたり0・1%未満と、ほぼ停滞していました。平成〜令和の日本も、この20年間、名目経済規模がまったく変わっていません。そんな世界では、どんなに働いても現状維持が精いっぱい。何年経っても不幸で貧乏でほかに楽しみがないから合理的な価値観から遠ざかり、他人の行いを監視する方向に向かってしまう。そして「不道徳」や「不謹慎」を見つけ出し、糾弾することで鬱憤を晴らす。現代日本の過剰な不倫たたきの最大の原因は、経済停滞なのです。
この不健全さから抜け出すには、経済成長しかありません。名目経済規模がドイツ並みの2%でいいから成長すれば、例えば400万円の年収が5年後には約460万円になり、ちょっとした中古車が買えるように。人生を楽しむため、豊かにするためにもっともうけようと躍起になり、他人の不道徳に構っている暇などなくなります。結果、寛容な世の中に変わっていくことでしょう。
■古谷経衡(ふるや・つねひら) 1982年11月10日北海道生まれ。若者論、社会、政治、サブカルチャーなど幅広いテーマで執筆評論活動を行う。地上波番組コメンテーター、紙媒体連載、ラジオコメンテーターなど出演多数。自身初の長編小説「愛国商売」(小学館文庫)が発売中。
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