生活保護は十分な収入や資産のない人に、健康で文化的な最低限度の生活を保障する国の制度だ。
減額は困窮者を脅かす。必要であっても慎重に検討するべきであり、客観的な数値に基づく算定が必要なのは言うまでもない。司法が減額の客観性に疑問を投げ掛けた。国は謙虚に受け止めるべきだ。
2013~15年の生活保護費の基準額引き下げが生存権を保障した憲法に違反するとして、大阪府に住む受給者ら42人が国と自治体に処分取り消しや慰謝料を求めた訴訟の判決で、大阪地裁が処分は違法とする判決を言い渡した。
憲法違反かどうかの判断は示さず、慰謝料は認めなかった。
原告側弁護団によると、青森、宮城、秋田など29都道府県で約900人が起こした同種訴訟で2件目の判決で、処分を違法として取り消したのは初めてという。
国は13~15年の3年間で、生活保護費のうち食費や光熱費などの日常生活に充てる「生活扶助」を平均6・5%、最大で10%引き下げた。下げ幅は過去最大だった。
訴訟では、生活保護基準を改定する厚生労働相の判断に裁量権の逸脱がなかったかが主な争点になった。
昨年6月の名古屋地裁判決は、引き下げ判断は不合理ではないとして請求を退けていた。
判決は、引き下げ決定手続きの2点を問題視した。
一つは世界的な原油価格や穀物価格の高騰で「特異な物価上昇」が起こった08年を起点に物価下落を考慮した点だ。基準額の引き下げ幅が大きくなることにつながった。
もう一点は消費者物価指数ではなく、厚労省が独自に算定した指数を使用したこと。厚労省の指数は、生活保護世帯で支出が少ないテレビやパソコンなど教養娯楽用品を含む。これらの比重が大きくなり、下げ幅が過大となった。
判決は「統計の客観的な数値や専門的知見との整合性を欠く。裁量権の逸脱や乱用があり違法だ」と結論づけた。
今回の司法判断は同種訴訟はもちろん、困窮者への公的支援制度にも影響を与えそうだ。
引き下げの背景には当時、生活扶助の水準が生活保護を受けていない世帯の生活費を上回る現象が一部で起き、批判があったことがある。
自民党は12年12月の衆院選で、生活保護給付水準の10%減額を公約していた。実際の下げ幅の最大10%と奇妙に一致する。国は引き下げを結論ありきで進めたと指摘する専門家もいる。
新型コロナウイルスの流行で職を失ったり、収入が激減したりして生活苦に陥る人は少なくない。「最後のセーフティーネット(安全網)」とされる生活保護の役割は大きくなっている。仮にも制度に疑念を持たれるようであってはならない。
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