変わるドローン撮影のイメージ
ドローンによる空撮が一般の方にも認知されるようになったのは、DJI Phantom 3 Proぐらいの時だろうから、おそらく2015年頃からと思う。
当初はいかにもドローン、いかにも空撮といったショットがもてはやされたものだが、最近は普通のカメラのように見せかけて、実際これどうやって撮ってるの? といった使われ方に変わってきているように思う。
例えば先日、Appleがイベントで沢山の製品を発表したが、ティム・クックCEOの歩きのショットの一部は、ドローンで撮影されたものだろう。カメラの揺れ方からもドローンっぽいのがわかるが、AirTagの担当者の説明に入る直前、カメラが空に舞い上がるシーンがある。
そんな具合に今ドローン撮影は、ビュンビュン空を飛んだり航空写真代わりに使ったりするものから、高解像度かつ安定したドリーショットを撮影するツールとして使われるようになった。
DJIでは4月上旬から、「1」をモチーフにしたティザーを展開していたが、15日に発表された「DJI Air 2S」は、1インチセンサーを搭載した中級機であった。価格はスタンダード版が119,900円、アクセサリー類が同梱のFly More コンボが165,000円。
業務モデルまでご存じの方ならこのぐらいで中級機はないだろうというご意見もあろうかと思うが、今DJIの小型機は200g以下モデルなので、フライト重量が約600gの本機はコンシューマ機の中では中級機、ということにさせていただく。
過去DJIでは、2018年に1インチセンサーを搭載した「Mavic 2 Pro」というモデルがあった。2倍ズームレンズ搭載の「Mavic 2 Zoom」と同時発表だったので、覚えている方も多いだろう。その後2020年に同クラスの「Mavic Air 2」が登場したが、カメラ解像度はアップしたものの、センサーサイズは1/2インチであった。
今回のDJI Air 2Sではどんな絵が撮れるのだろうか。さっそく試してみよう。
コントロールしやすい機体
では早速フライトしてみよう。本機のポイントは1インチセンサーによる5.4K撮影という事になる。センサーが大きくなれば、その分被写界深度によるボケ幅を期待するところだが、あいにく焦点距離が35mm換算で22mmとかなり広角なので、期待するほど被写界深度が浅い絵が撮れるわけではない。
レンズがワイドなので、被写界深度はそれほど浅くならない
一方解像度の面でも、4Kと比較して劇的に画質が向上するというわけでもない。ただ、5.4Kから4Kに切り出せば、劣化を気にせず1.4倍には拡大できるので、広い絵で撮ってあとでクロップしてサイズを詰めたいという場合には便利である。
画像合成によるパノラマの静止画撮影は、ジンバルと機体を自動的に動かして複数枚撮影することで、さらに広角のショットを得ることができる。この機能を使えば、最大で7,200×4,608解像度で撮影できるカメラとなる。
新しく加わった撮影機能としては、「マスターショット」がある。これは従来からあった自動撮影機能「クイックショット」の各モードを自動的に連続で実行し、さらにそれを自動的に動画編集してくれるというものだ。中心となるものをマーキングして実行すると、およそ2分間かけてさまざまなショットを自動的に撮影する。撮影終了後にスタート地点へ帰還する。
自動編集には20パターンがあり、雰囲気に合わせて選択する。テロップや音楽などは自動的に追加される。今回はNDなしとND32で同じ撮影をし、同じパターンで自動編集してみる。
マスターショットで撮影。前半はNDなし、後半はND32
撮影時刻は夕方4時半ごろだが、ND32の方が色味がしっかりしている。本機のカメラには絞りがないため、露出はシャッタースピードで調整することになる。NDなしではシャッタースピードが上がるため、それが発色に影響するのかもしれない。なお、この自動編集はスマートフォン上で行なわれるため、ドローン内のSDカードには撮影時の元素材しか収録されない。
総論
すでにMavicという製品がついた新製品は出なくなって久しいが、サイトを見るとDJI Air 2SはMavicシリーズの1つということになっており、なんだかややこしい。さらに末尾に「S」が付いたモデルも初めてで、どういう意味があるのかよくわからないが、2018年の「Mavic 2 Pro」で実現した1インチカメラと、2020年に登場した「Mavic Air 2」の運動性能を合体させ、さらに1ランク上の安全性能を搭載した機体、ということである。
1インチセンサー搭載、NDフィルターも提供ということで、本格的な撮影に対応するスペシャルモデル、ということは言えるだろう。5.4K撮影も、広角レンズで広めに撮影しておいてトリミングで使うといったことを想定してのことだろう。障害物回避機能がONの場合は、被写体に接近しようとしても近づけないので、必然的にトリミングは必要になる。4Kに対して1.4倍拡大できれば、構図としてもかなりいいところを切り取れる。
新搭載されたADS-Bシステムは、なかなか優秀だ。実際に今回のテスト撮影中にも、近くに航空機があるので安全な高度で飛行するよう、警告アナウンスを聴く事ができた。近くといっても接触が懸念されるような距離ではなく、音はすれどもどこに? え、あそこ? ぐらいの距離でも警告が発せられる。こちらとしても警告が出たら高度を下げると言った配慮は必要だろう。
もっとも今回の撮影はほとんど空撮をしておらず、いかに人の目線の高さで人のように撮影できるかに時間を割いた。細かい操作はトレーニングが必要だが、トラッキングやCINEモードを上手く使えば、かなり自然な撮影ができることがわかった。
さらにD-Logでも撮影できるので、後処理でカラーグレーディングも可能になっている。ただし「マスターショット」はLogでは撮影できないようだ。
本機はプロ向けではなく一般向けカテゴリーの商品だが、撮影動画を見ればかなりクオリティが高いことがわかる。ただジンバルの稼働範囲が狭いために機体ごと動かさないと撮れないところがあるので、その辺の自由度はプロ機に軍配が上がる。ただプロ機はデカくて持ち運びが大変なので、比較的近い距離からの人物撮影には本機ぐらいのサイズが最適なんじゃないかと思う。