アスクルは8月2日、都内で定時株主総会を開き、取締役10人の選任議案を付議した。筆頭株主のヤフーと第2位株主のプラスが、岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人(役職名は当時、以下同)の再任に反対する議決権を事前に行使したため、株主総会の終了をもって4人は退任した。決議に先立って行われた、株主と取締役の質疑では、アスクルの今後について、多くの質問が出た。
アスクルと対立中のヤフーから出向している社内取締役の輿水宏哲氏、ヤフーが派遣している社外取締役の小澤隆生氏は株主総会に出席し、株主からの質問に応じた。プラス社長でアスクル社外取締役の今泉公二氏は、「所用」との理由で欠席した。
元セブン&アイ鈴木氏の二の舞に?
午前10時、岩田社長が「アスクル・ヤフー・プラスの間で、ガバナンス体制や議決権行使、『LOHACO』の譲渡を巡る件でお騒がせしていることをおわびする。本件が、上場子会社におけるガバナンスの在り方、独立社外取締役が果たすべき役割への議論が深まる契機になってほしい」と述べ、株主総会が始まった。
岩田社長が決算概況を紹介した後に行われた質疑では、同社長の退任による業績への影響についての質問が目立った。
序盤に挙手した株主は、「セブン&アイ・ホールディングスは、組織を基礎から作り上げた鈴木敏文氏が内紛によって退任してから不祥事が相次ぐようになり、店舗オーナーとのトラブルや、キャッシュレス決済サービス『7pay』の終了といった問題が目立っている。アスクルも、影響力があり、周囲から全幅の信頼を寄せられている岩田社長が辞めて大丈夫なのか。悪い影響があるのではないか」と不安な心境を吐露した。
これを受け、岩田社長は「アスクルは22年間『お客さまの方を向く』という企業文化を大切にしてきた。これは遺伝子のようなもので、一朝一夕では生まれない。私がいなくなっても会社の風土は変わらない」と語った。若手の後継者候補の育成も進めており、「次の世代を担う人たちは着実にアスクルに育っている」という。
吉田仁COO(最高執行責任者)は、「(岩田社長の退任後は)法人向け(B2B)事業の円滑な成長を続けることが一番の使命だと思っている。ガバナンスをしっかり効かせ、成長につなげていくことが大切だ」と話した。
ヤフー側の取締役にも質問が
中盤には、株主から「現体制では、LOHACOの立て直しに向け、ナショナルブランドだけではなく、プライベートブランドを強化する方針を掲げているが、ヤフーはLOHACO事業の新しいプランを持っているのか」と、ヤフー側の取締役への質問も飛んだ。
これに対し、小澤取締役は「ヤフーのプランを押し付けることは、アスクルの独立性の侵害につながるので、アスクルの立て直し策をバックアップしたい」と回答した。
ただ、今後の体制については「あらゆるリスクを考慮に入れながら業務を執行し、予想だにしないことが起きても乗り越え、適切な処理をして、掲げた目標を達成できる執行体制にしていきたい」(小澤取締役)と述べ、物流センターの火災や配送費の高騰を減益要因に挙げていた旧体制を暗に批判した。
LOHACOをアスクルから分離するのか
この他、「ヤフーは今後、LOHACOをアスクルから分離する可能性があるのか、イエスかノーで答えてほしい」との質問に対し、輿水取締役は「アスクル内で審議をして譲渡をしないといったん決めたので、今のところは考えない」と回答。
これを受けた岩田社長が「『いったん』とはどういう意味か」と問いただし、輿水取締役が「譲渡はしない」と言い直すなど、緊迫した空気が漂う場面もあった。
一方、小澤取締役は「ノー」と即答し「LOHACOをヤフーに持ってくることはないので、安心してほしい」と説いた。
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戻りたい気持ちはない
終盤には「体制が変わっても、業績改善がみられなかった場合などに、岩田社長が復帰する可能性はあるのか」など、今後の身の振り方を問う声が多く出た。
これに対し岩田社長は、「本当に必要という声がない限りは。私自身が経営に戻りたい、社長をやりたいという気持ちはない」と明言した。
岩田社長らの退任後、しばらくは独立社外取締役がいない体制になるが、これについて同社長は「異常な事態であり、早く解消しなければならない。(対応策を議論するために)臨時株主総会が開かれるだろう」と語った。
岩田社長に温かい拍手
質疑が終了し、取締役選任議案の決議が始まると、退任が事実上決定していたにもかかわらず、岩田社長の採決の場面では個人株主から大きな拍手が沸き起こった。同じく独立社外取締役3人の採決でも拍手が起き、株主からの信頼をうかがわせた。
岩田社長は、自身を含む4人の採決結果を「過半数の採決を得られなかったので、否決されました」と淡々と読み上げた。
一方、続投が決定したものの、輿水取締役・小澤取締役への拍手はわずかだった。欠席した今泉氏に対しては、一切の拍手が起きなかった。
立場にしがみつくつもりはない
株主総会の終了後、岩田社長は記者会見を開き、「不本意だが、本日をもって経営から退く」「立場にしがみつくつもりはない。アスクル経営陣との関わりは全て終わり」と話した。
2社の議決権行使によって退任に追い込まれたことに対しては、「日本社会では、支配株主の持つ力は圧倒的で、(子会社のトップが)自分たちの意に沿わない場合は飛ばして(=排除して)しまうのが現実だ。本当にそれが資本の論理でいいのか」と、釈然としない心情を吐露した。
採決の際に株主から拍手があったことに話が及ぶと、岩田社長は目にうっすらと涙を浮かべながら「既に結果が決まっているセレモニーであっても、一生懸命拍手をし、精いっぱい(支持を)表明してくれた」と振り返った。
岩田社長は、事業家としての今後の身の振り方については明言を避けたが、「アスクル経営陣との関わりはなくなるが、これからは少数株主として、アスクルという会社に危ないことが起きないよう、外から十分注視していきたい」と語った。
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2019-08-02 07:36:00Z
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1908/02/news108.html
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