痛みを伴う笑い、身体を張った罰ゲームやタレントの容姿いじりなどへのコンプライアンスの強化、傷つけない笑い、長寿バラエティ番組の終了など、現在お笑い業界は急速にその形を変えつつある。
今までは可能であった笑いが不可能になったり、特定のお笑いの手法が差別を助長するものになったりと、細かいものまで数え上げたらきりがないほど、芸人を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。この“お笑い業界の変化”に関しては僕のコラムでもよく書かせてもらっているのだが、変化しているのはお笑い業界だけに限った事ではなかった。
一体どの業界なのかというと「猿まわし」業界だ。とある猿まわし芸人の動画がSNSで拡散されて話題になったのが、事の発端だ。どのような動画が拡散されたのかというと、栃木県日光市の「おさるランド」というテーマパークを拠点に活動している「日光さる軍団」に所属している女性猿まわし芸人さんが、さいたま市で行われた公演の合間に猿に対して芸を教えている姿なのだが、問題はそのトレーニングの仕方。
僕も実際に動画を見たのだが、猿の足を叩いたり、こめかみ部分を両手で押さえつけグリグリしたりという“過剰なしつけ”が50秒間にわたり映し出されていた。この動画を見た人達から「可哀相」とか「虐待」などの声が寄せられ、問題となったのだ。
ここからは僕の個人的な感想なので、あまり気に留めないでほしいのだが、動画に映し出された姿は確かに「可哀相」であり、見ていて不快な気持ちになったが、猿まわしの“しつけ”のイメージとそうかけ離れたものではなかった。
最近ではあまり見かけないが、僕が子供の頃は「猿まわし」や「日光さる軍団」を特集した番組は非常に多く、かなりの頻度で放送されていた。その際に猿をしつけるシーンが流れていたのだが、今回問題となっている『過剰なしつけ』とそこまで違いがあったようには思えない。子供の頃の僕は、そのしつけのシーンを見て「お猿さんがかわいそう」という感想だったからだ。
今もしているかはわからないが、当時印象に残っているのは、芸人と猿のどちらが主人なのかわからせる為に、嫌がる猿をうつぶせに抑えつけて背中に噛みつくシーン。猿は元々攻撃的で、芸人が下に見られるとまったく言うことを聞かなくなるので、徹底的にどちらが上かわからせなければいけないというような趣旨の話をしていた記憶がある。
なので、今回の動画を見たときも当たり前のようにしているしつけの一環で、我々一般人にとっては過激に見えてしまったとしても、猿まわし業界では普通のことなのではないのか? と思っていたのだが、今回の騒動を受けて日光さる団を有する株式会社モンキーエンタープライズは「通常のトレーニングではあり得ず、あってはならない行為」として、猿まわし芸人の女性を業務から外しており、さらに女性芸人自身も「新しい芸に挑戦したが思い通りにならず、感情的になってあのような行為に至ってしまった」と言っているようで、どうやら彼女が行ったしつけは業界的に見ても「過剰なしつけ」だったようだ。
しつけの方法が変わったのか、僕の記憶が間違っているのかわからないが、今は猿のしつけも多少柔らかくなったということだろう。
昔なら「猿だからしょうがない」と言われていた「過剰なしつけ」も今では「動物虐待」と紙一重なところにおり、この一件を踏まえて、猿まわし業界もコンプライアンスが強化されるだろう。
猿まわし芸人さんにとってはやり辛かったり、方法を変えたりしなければならないかもしれないが、逆に猿にとっても世間的にも誰も傷つかないという良い方向へ進むのは間違いない。しかし、昨今のお笑い業界のように「あれもダメ」「これもダメ」という風にがんじがらめになり、演目がつまらなくなったり、猿まわし自体が無くなったりしないで欲しい。
子供の頃、しつけの部分は確かに悲しい気持ちになったが、お猿さんが芸をする猿まわしの部分はとても可愛く、とても面白かった。動物と人間のコンビ芸「猿まわし」には笑いの基本が多く詰まっており、もはや伝統芸能の域にいる。時代に合わせて形を変えたとしても続けて欲しい芸のひとつである。
最終更新:2023/02/18 13:00
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