スリープ状態からの1秒未満の復帰。ノートPCの液晶ディスプレイを開くと、まるで電源がずっと入っていたかのようにロック画面が表示され、指紋や顔で瞬く間にサインイン、そこには閉じる直前の散らかし放題のデスクトップが再現される。これがモダンスタンバイだ。だが、スリープからの復帰に失敗した過去の悪夢がトラウマになっているユーザーも少なくない。
スリープのトラウマ
スマホやタブレット、Chromebookといったデバイスは、電源を入れたらそのままでずっと稼働し続けることを前提に使われる。あるのは画面が点灯しているかいないかの2つの状態だけだ。
そして、画面が消灯していても、電話が着信すれば音で知らせるし、インスタントメッセージが届けば、それが音などで通知される。設定次第で、画面が自動点灯し、ロック画面に通知が表示されたりもする。当然、WANやWi-Fiなどの通信は接続が維持されている。
それが当たり前なので、PCを開くのは億劫だが、スマホやタブレットなどは気軽に扱えるという神話が生まれた。
PCのスリープは、1990年代の始めから電源管理のインターフェイスとしてAdvanced Power Management(APM)やAdvanced Configuration and Power Interface(ACPI)といった業界標準によって、サスペンド、スリープ、スタンバイといった名称で実装されてきた。MS-DOSの時代、つまり、30年以上前からこの機能を使うことができていた。
ところが、スリープからの復帰は、失敗すると致命傷になることも多い。保存していなかった編集内容は失われ、場合によっては、開いたままだったファイルを正しく閉じなかったために、ファイルが壊れてしまうこともある。
スリープへの移行に失敗し、カバンから出そうとしたらアツアツのボディに驚くといったこともあれば、そうでなくてもバッテリがスッカラカンといったこともある。
また、昨今ではセキュリティの確保のために、スリープさせることが管理者によって禁止されている組織も少なくない。稼働を続けるPCを放置することに等しいから、それは厳禁だというわけだ。
それでも、スリープとそこからの復帰は、PCの使い勝手に大きな影響を与える。今のPCはシャットダウン状態からの起動でも、様々なシカケによって20秒もあれば使える状態になる。
ただ、シャットダウンからの起動では、その直前の状態が保持されないので、必要なアプリやファイルを見付けて開き直す必要がある。
スリープの便利さは機会を見ながら、繰り返し書いてきた。デフォルト設定なら液晶を閉じるだけなのだが、使い終わったらシャットダウンしなければならないというムードが強かったりもする。復帰に失敗することを怖れるよりも、失敗しても困らないようにしておくことも考えたい。
スタンバイからモダンスタンバイへ
現在のPCではモダンスタンバイと呼ばれる状態は、かつて、MicrosoftはWindows 8の機能としてConnected Standbyを実装したことに始まる。
2011年に開催されたの開発者向け会議Buildカンファレンスで紹介されたものだ。たった10年しか経っていない。
当初は、Intel Atom搭載PCだけでサポートされ、多くのピュアタブレットPCが各社から発売された。その後、Haswellのコードネームで知られるCore iシリーズがサポートするS0iXという状態によって実現されるようになった。
スリープ中にも30秒に一度の通信を行ない、接続を維持したままスリープ状態を続けることができる。一般的に知られるようになったのは2013年以降だ。
日本では、2013年に、ソニーがVAIO Duo 13でフライング実装、そのあとを追って翌2014年にパナソニックがレッツノートMX3で興味深いチャレンジをしている。そのころには、Connected Standbyは、InstangGoと呼ばれるようになっていた。OSはすでにWindows 8.1だ。
その名前は2015年にはWindows 10に実装された時に、モダンスタンバイと改められている。Windows 8時代から模索が続いていたMicrosoftのAlways Connected PC構想の集大成に近い。
そのモダンスタンバイは、パナソニックが2019年に5年前と異なるアプローチで当時最新のレッツノートに実装した。
この実装が、現在のモダンスタンバイと同じであるかどうかは実際のところ分からない。IntelはEvoプラットフォームで規定しているのは1秒内の復帰であって、そのための方法は一般に公開されている要件の中には見当たらない。ただ、S0iX状態を利用しているのは確実なようだ。
また、Windowsの設定アプリにも、以前はスリープ時にネットワーク接続を維持するかどうかを決めるための項目が用意されていが、今はそれが見付からない。まあ、スリープ中に通信を利用できるのが、いわゆるストアアプリだけだったのだから、使い道も限定されていたということがある。いずれにしても、よく分からないままに、高速復帰の便利なスリープ機能として、モダンスタンバイが常用されるようになり、現在に至っている。
10年に一度のWindows大刷新に期待
とまあ、こんな具合に、たかがスリープだが、何十年もかけてちょっとずつ進化をしてきたのだ。いずれにしても、PCはスマホやタブレットよりも使える状態になるまでにたくさんの時間がかかるというのは都市伝説にすぎない。1秒未満ならスマホと遜色はない。
だが、Windowsで使われるアプリの多くがまだまだWin32依存のものばかりだし、ドライバ類もしかりという中で、なかなかスリープ中のPCに働いてもらって便利な方向が見出されない。
PCを携行している場合、ほぼ確実と言っていいほど同時にスマホも携行しているため、何かの通知による気付きという点では、やはり、ポケットに入るスマホに手が行ってしまう。
それならスリープ中のPCからも音を出せばいいのかというと、そういうイメージでもないように感じる。少なくとも、ブラウザが稼働を続けることができれば、随分使い道は拡がるようにも思う。
Microsoftはこの秋に、コードネームSunValleyで知られるWindowsの大規模刷新を予定しているそうだ。6月21日にはそのためのイベントも開催されるという。10年に一度の大刷新ということだが、そろそろモダンスタンバイにも何らかの手が入ってほしい。スリープの活用は、PCの新しい使い方に大きな便宜をもたらすに違いないからだ。
からの記事と詳細 ( モダンスタンバイ、信じる、信じない? - PC Watch )
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