まるで大惨殺の現場のように見える、フランス・アルプスの氷河。
いつもは真っ白な雪を被っていますが、赤黒く血のような斑点に覆われることが増えました。この斑点は実際の血ではなく、微細藻類の異常発生によるもの。クラミドモナス・ニヴァリスという赤い色素を持つ緑藻の一種が光合成によって雪を染めているのです。実際の殺人による光景でないとしても、それらはアルプスの氷にとって危険な未来を示しています。
この奇妙な斑点とそこから気候危機について深く知ろうと、フランスの科学者の集団はAlpAlgaというプロジェクトに着手しました。彼らの研究成果は先日、Frontiers in Plant Scienceに掲載された論文に詳しく書かれていて、藻類の異常発生を「気候変動の潜在的な指標」だと評しています。
赤、オレンジあるいは紫の色を出す藻類の変種はアルプス山脈だけでなくロッキー山脈、グリーンランドと南極大陸など世界中の山脈で見つかっています。気候危機によってこういった雪に覆われた地域が温暖化していけば、雪解け水が増えてこの藻類が異常発生するのに理想的な状態をもたらし、ピンク色の雪の増加につながるのではないかと研究者らは長いこと疑っていました。
本当にそうなのか確かめるべく、AlpAlgaチームは2016年にフランス・アルプスの海抜1000~3000メートルの高度にある5つの地点から土壌サンプルを収集する遠征を敢行。その遠征で得た158の土壌標本を入念に研究しました。
土壌にはあらゆる生物が落としたDNAの小片が詰まっているので、科学者らは土壌サンプルから様々な藻類がどこに生息しているか明確に把握できました。高度ごとに異なる品種の藻類が繁殖していることを発見したのです。
たとえば血のように赤い色を生み出す藻類Sanguina属は高度2000メートル以上にしか生息していませんが、対照的にDesmococcuとSymbiochlorisと呼ばれる2種の緑藻は1500メートル以下にのみに生息しています。
分布がくっきりと分離しているということは、藻類は種類ごとにかなり特殊な温度条件を頼りに生息していると示唆しています。しかし気候変動が山の生態系を温めていき積雪期を縮めていけば、生物のライフサイクルを台無しにしてしまうかもしれません。
水中に生息する微細藻類のように、氷雪藻は山地の生態系の食物網の基盤ですから、これはまずい事態。藻類に覆われる雪が増えれば、濃い色の藻類は白一色の雪よりも太陽光を吸収するためアルプスに残っている氷河と雪渓はさらに弱体化してしまいます。既にかなりの融解に直面している地域にとってさらなる温暖化を意味する可能性もあります。
この新しい研究は、具体的にどんな環境的な条件が藻類の大量発生を引き起こすのか、そして気候と雪解け水における変化がそのライフサイクルにどう作用して、こういった異常発生が残存する氷にどう影響を及ぼしているのかといった点の解明を目指すAlpAlgaチームの試みの始まりにすぎません。科学者たちは今月のアルプス遠征でも研究を続けるつもりで、異なる季節間における異常発生の変化を調べます。この研究によって、地球の温暖化が続くなかで藻類とアルプス全体がどう変化する可能性があるか理解を深めたいと望んでいます。
1つはっきりしているのは、気候変動が既に同地域の氷河を破壊しているという点です。欧州のアルプスは産業革命以前から既に2℃上昇していて、それは世界平均よりも速いです。第一次世界大戦の遺物や氷に生き埋めにされたカップルなどが発掘されています。今世紀半ばまでには氷河の少なくとも半分が失われようとしていると研究者らは示しており、私たちが温室効果ガスの排出を近いうちにどうにかしなければ、アルプスの未来は赤色の雪以上に気味の悪い運命をたどりそうです。
Source: AlpAlga, Frontiers in Plant Science, Country Living, ScienceDirect,
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