Wednesday, October 21, 2020

種苗法改正の前に十分な説明と議論を。臨時国会で危惧される菅政権の種苗法改正ゴリ押し - ニフティニュース

◆周知が不十分で議論も尽くされていない「種苗法改正」

 今年4月に、女優の柴咲コウさんが「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」(4月30日のTwitter。現在は削除)と警告したことが話題となり、結局通常国会では継続審議となった種苗法改正。この法案を、実家がイチゴ農家の菅義偉首相(政権)が、10月26日召集の臨時国会で成立させようとしている。

 自民党の森山裕国対委員長(元農水大臣)は10月18日、「継続となっております種苗法も早く成立させないと国益を失いますので」として、成立を目指す考えを示した。

 だが、この法律が逆に国益を損ねるという反対論も少なくない。「タネを制するものは世界を制する」という考えのグローバル種子企業を儲けさせ、日本の農家を窮地に追い込む“売国奴的改悪”とする見方もあるのだ。民主党政権で農水大臣を務めた山田正彦・元衆院議員(弁護士)は「成立すると、日本の農家に壊滅的打撃を与える恐れがある。臨時国会で与野党対決法案になるのは確実です」と見ている。

 生まれ故郷・秋田の農村から上京、横浜で代議士秘書を経て市議から国会議員、そして総理大臣に登り詰めた菅首相を、メデイアは「ミスター叩き上げ」「苦労人」「庶民派」といったイメージで包み込んだ。

 しかし一皮むくと、第二の故郷・横浜を海外カジノ業者に売り渡す旗振り役をする冷酷無情な“素顔”も持ち合わせていた。しかも生まれ故郷秋田を含む全国の農家を奈落の底に突き落としかねない種苗法改定を目論んでいるというのだ。

 山田氏は菅首相の強権的体質についてこう続けた。

「農業分野でも菅首相は、TPPや種子法廃止や農業競争力強化支援法など大企業がますます富む新自由主義的な農業政策をゴリ押ししてきました。第二次安倍政権の官房長官時代、TPPに反対した全農の万歳章会長を辞任に追い込んだのは、菅首相と森山国対委員長と見られている。『政府の方針に逆らうものは排除する』という姿勢は、日本学術会議問題だけでなく、農業政策でも同じといえます」(山田氏)

◆柴崎コウさんも「きちんと議論がされて審議する必要」と指摘

 ネット上での反対拡大で検察庁法改正が成立断念となった通常国会では、安倍政権の支持率が低迷。本格的な国会論戦直前で種苗法改正も継続審議となった。

 柴咲さんが「『種苗法』改正が行われようとしています。自家採取禁止。このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます。これは、他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです」とツイッターで問題提起。賛否両論が寄せられて第一稿は削除した後も、投稿理由を説明するこんな第二稿を発信した。

「種の開発者さんの権利等を守るため登録品種の自家採種を禁ずるという認識ですが、何かを糾弾しているのではなく、知らない人が多いことに危惧しているので触れました。きちんと議論がされて様々な観点から審議する必要のある課題かと感じました」

 この連続投稿で拙速な種苗法改正に対する慎重論が急速に広まって、検察庁法改正と同様、成立断念となった。これを5月20日の『毎日新聞』は「『種苗法改正案』今国会成立を断念へ 柴咲コウさんの懸念ツイートで慎重論拡大」という見出しで、次のように報じた。

「自民党の森山裕国対委員長は20日、ブランド農産品種の苗木などを海外に持ち出すことを規制する種苗法改正案の今国会での成立を見送る方針を示唆した。農作物の自由な栽培が難しくなるとの懸念を野党などが示しているためで、記者団に『日本の農家をしっかり守る法律だが、どうも逆に伝わっている』と述べ、成立には時間が必要だとの認識を示した」

 種苗法改正への見方は与野党で正反対。同じ元農水大臣でも山田氏は「種苗法改定は農家にとっては死活問題」と反対しているのだ。

「TPP協定締結と種子法廃止に続くのが今回の種苗法改定です。今までは農家が自家増殖(採種)できたのに、改定されて自家採取できなくなると、コスト高で採算が取れなくなり、廃業に追い込まれる農家が続出するのは確実です」

◆中小規模農家を廃業に追い込むことになりかねない改悪

 そんな危機的状況にある農家の生の声を紹介したのが、映画『タネは誰のもの』。山田氏はこの映画のプロデューサーをつとめている。

「種苗法改定の問題点を分かってもらうには、農家の生の声を映像にするしかないと思い、原村政樹監督に相談しました。そして北海道から沖縄まで一緒に回って、全国各地の現場で撮影をしたのです。菅首相がこれを見れば、農家を廃業に追い込むことになる改悪であることが分かるでしょうが」

 10月16日にはこの映画の試写会が開かれ、山田氏と原村監督が対談もしたが、たしかに現場の農家の切実な声がいくつも紹介されていた。

◆現場農家の切実な声

 栃木県大田原市の有機農家の古谷慶一氏はこう語る。

「農家を保護するための改正ではなくて、農家をやめなさいという改正になっている気がする。(タネは)ある特定の人たちが持つものではなくて、みんなのもの。地域で代々守ってきたわけで、それが一企業が持つのはおかしい」

 鹿児島県種子島のサトウキビ農家の山本伸司氏も、種苗法改定でサトウキビ農家は壊滅すると危機感を募らせていた。

 そして鹿児島から沖縄に至る離島の主要作物であるサトウキビが大打撃を受ければ、人口は激減し、「安全保障上も問題」という警告も発していた。中国が尖閣周辺への圧力を強める中、日本の離島防衛上も国益を損ねかねないというわけだ。

 賛成派と反対派とのギャップが埋まらない中、臨時国会では「グローバル企業がタネの権利を独占、農家が壊滅的打撃を受ける恐れはないのか」「現行法で苗木の海外持ち出しを防げないのか」などについて徹底した議論が不可欠に違いない。

 農家や消費者の懸念を十分に払拭しないまま、菅政権(首相)がグローバル種子企業の跋扈を許しかねない種苗法改定をゴリ押しした場合、冷酷無情な独裁的首相の“素顔”がさらに広まることになるだろう。臨時国会での論戦が注目される。

<文・写真/横田一>

【横田一】

ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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October 22, 2020 at 06:32AM
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