Wednesday, October 28, 2020

社説 地方振興策 国の方針を押し付けるな - 信濃毎日新聞

 「活力ある地方を創るという一貫した思い」。菅義偉首相は所信表明でこう述べた。

 自民党総裁選の最中から秋田県で生まれ育った経歴を強調、地方に寄り添う姿勢を示してきた。

 その割に、掲げる政策は前政権の域を出ない。東京圏の人口一極集中を解消し、少子化の加速を抑える展望は開けないままだ。

 前政権は「地方創生」を政策の柱に据え、▽東京一極集中の是正▽若い世代の就労、結婚、子育ての希望の実現▽地域の特性に即した課題解決―を目標とした。実際の政策は成長戦略に組み込まれて経済に偏り、肝心の少子化対策は後景に退いていた。

 東京圏に流入する人口は増え、出生率も回復しない。検証が不十分なまま、地方創生は本年度から第2期に入っている。

 菅首相は、観光や農林水産業の改革を進め「地方への人の流れをつくり、地方の所得を増やし、地方を活性化し、日本経済を浮上させる」と主張する。拡大・成長路線が問題を解決するとの基調に何らの変化もない。

 地方の雇用機会を広げるのは重要だ。けれど、それだけで人口を地方に分散する社会構造の転換をなし得るとは思えない。

 人口減少に直面するのは、企業誘致や新産業の創出が見込める地域ばかりではない。移住者を呼び込むよりも、いま住んでいる高齢者らの暮らしの安定を優先する自治体もある。

 例えば、役場の職員が地場産業を手伝ったり、若者が職業をかけ持ちして住民の生活を支えたりする取り組みが各地で見られる。

 地方への移住を希望する若い世代の間でも、経済的な成功より、周りの人たちとの共生を重視する価値観が高まっている。

 地域の存続に向けた創意工夫は住民と現場を共にする自治体に委ねられるべき事柄だ。政府が針路を決め、地方を従わせることにそもそもの無理がある。

 このところ、政府が基本戦略を決めて自治体に実施計画を作らせ、意にかなう事業に予算を重点配分する手法が目につく。国の審査を経ない自由財源として公平に配り、必要な権限を移譲する方がずっと有用なはずだ。

 人々の生き方や働き方の選択肢を広げる発想の転換が伴わなければ、分散型社会への移行はおぼつかない。菅政権は、地方創生のあり方から見直すべきだ。

(10月29日)

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