Wednesday, September 23, 2020

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】オーバーツーリズムは諸悪の根源 - PR TIMES

地方創生大賞として評価された「白川郷の冬のライトアップイベント改革」を、なぜ弊社で手がけるようになったか?ということに関しては前回「持続可能な観光地経営をデザインする vol.1」にて、お伝えしてきた通りです。

その続編となる本章では、白川郷でのオーバーツーリズム問題に対して、弊社が実際にどのように解決策を考え、改革を実行していったのかをお伝えしていきます。

  目次

  1. お客様の声に耳を傾ける
  2. 課題解決に向け全体設計を描いていく
  3. まだまだ山積みの課題
  4. まとめ

お客様の声に耳を傾ける

オーバーツーリズムとは、観光客による過剰な混雑のことを指します。日本では観光公害と訳されています。

オーバーツーリズムによる最も大きな弊害は、受け入れ側住民の疲弊による連鎖的な質の低下です。白川郷がある岐阜県白川村では、1年を通して様々なイベントがありますが、その中でも人気が高いのが「合掌造りライトアップ」でした。冬の名物としてアジアで一大人気となった当イベントは、2時間で8,000人から10,000人もの来場者があり、人口580人ほどしかいない集落にとって完全に許容範囲を超えていました。

世界各地から押し寄せる団体客や旅行者への対応で疲弊しきった現場には、お客様を快く迎えるような余裕はなく、実際の現場では深刻な交通渋滞 / 過剰な混雑 / 路上駐車 / 立入禁止エリアへの侵入 / 警備員と観光客の怒鳴り合いなどが連鎖的に発生し、お客様満足度は10段階評価で総じて2-3と散々たるものでした。中には二度と行きたくない、といった方の声も聞かれ、旅行者、受け入れ側双方にとって大変芳しくない状況に陥っていました。

(2018年以前の交通渋滞の様子:駐車場まで2時間待ちなどはざらだった)

そこで、弊社では以下の取り組みを発案しました。

・完全予約制の導入

・イベントの入場有償化 / 展望台チケット有償化

抜本的な解決策として、まず、完全予約制・有償化へと大きく転換しました。

■完全予約制導入までの道のり

・1995年の世界遺産登録以降から日本人観光客が増え出す

・2000年から貸切バスの予約制を開始

・2013年頃からインバウンド旅行客が増え、慢性的な混雑が発生

・2017年、2018年に問題が浮き彫りになり抜本的改革が求められた村の決断

・2019年から導入した、完全予約制・入場有償化

2017年のライトアップを終了した時点で、

2018年のイベントではすぐに完全予約制が導入されるものだと思っていました

しかし、村側の意向としては村民の合意形成が必要ということで2018年も従来通りの進め方で行うと決断しました。

しかし、当時オーバーツーリズムという言葉が観光業界では話題沸騰だったこともあり、2018年のイベント現場での混乱・混雑ぶりが様々なメディアで取り上げられてしまったことで、2019年には抜本的改革が必要になってきました。

そこで弊社はこのような背景を好機と捉え、

イベントのネックとなっていた入場者管理・運営を村側に打診し、

予約管理や当日のオペレーション全てを一任していただくことになりました。

あまりライトアップのことには触れないで欲しいとがっかり肩を落とすツアー客、展望台に行ったもののおしくらまんじゅう状態で何も見れずに帰ってしまう不満そうな顔、氷点下の中で1時間近くも帰りのシャトルバスを待ち泣き叫ぶ子ども、不満が溜まったお客様と村民ボランティアとのいざこざ。

(2017年展望台から景色を見ようと多くの観光客が殺到する様子)

長い間脳裏にあったお客様の悲しい表情からやっと解放されるのか!と思うとチームの士気はみなぎってきました。

地域で長く続いてきたイベントや制度、

慣習などを変えるには難しい判断を迫られることがあります。

しかし、時代が変化していく中で、変わらないことも大きなリスクなのです。

課題解決に向け全体設計を描いていく

完全予約制を実行する際には下記4点を重要点として取り組んでいきました。

・どのようにしてお客様に完全予約制を認知していただくか

・住民 / 観光客の負担を軽減することができるか

・どのようなお客様に来ていただき、楽しんでいただくか

・有償化とすることで地域財源の負担を減らす

(完全予約制にあたり設計し実行した仕組み)

完全予約制を認知していただく

そもそも完全予約制という言葉を選択した理由としては、インパクトかつコンパクトな単語で来場予定者に認知してもらう必要があったからです。

SNS、インフルエンサー、各メディア、旅行代理店などに協力していただき、日本人のみならずアジア人にも半年前から情報発信を続けていきました。

結論から言いますと、完全予約制のお客様側の認知という面は大成功といってもいいと思います。2019年は完全予約制初年度にも関わらず99.2%のお客様が事前予約をしてご来場下さりました。予約制と知らずご来場されたお客様は約2,400組の中で20組程度という数字です。もちろん予約を知らずに来られた20組のお客様への対処方法なども事前想定していたため、大きな問題・混乱なく終わりました。

(来場者でもっとも多い台湾人に向けメディアと連携し周知する)

住民 / 観光客負担の軽減

完全予約制にすることで従来20人ほどいた村民ボランティア(村内の観光従事者)を無くしても問題なく現場を回せるようになりました。

事前予約制としたことで予約者情報の国籍・懸念点などのデータ分析ができ、人員配置を効率よくできたことが起因しています。

実施後の村民へのアンケートでは「次年度以降も完全予約制を続けた方が良い:96%」や「来場者の質がよくなった」というポジティブな意見が多く寄せられました。またお客様としても86%が完全予約制に賛成という結果になりました。

(事後アンケート)

(駐車場までの待ち時間が劇的に短縮され、渋滞は解消)

(2019年、予約制としたことで駐車場は整然とした姿に)

どのようなお客様に来ていただくか

観光地経営としてもっとも重要であるにも関わらず、多くの地域で抜けている視点です。”地域が観光客を選ぶという発想”です。

これをレスポンシブル・ツーリズムといいますが、先行事例としてはハワイなどが意識して行なっていることです。地域側で来てもらいたい旅行者をフィルタリングすることで理想の観光地としてコントロールしていくことになります。

ライトアップでは、

・入場料を払ってでも行ってみたい

・現地での渋滞や混雑を回避できるのであれば、予約制に協力できる

というお客様に焦点を当て実行してきました。

リピーターの方は、これまでの騒然とした渋滞やイベント現場を知っていただけに完全予約制に大賛成という方がほとんどでした。

レスポンシブル・ツーリズムに関してはこちらに詳細を書いておりますので、気になる方はご覧ください。

新しい観光のカタチ -レスポンシブル・ツーリズムとは?

有償化する

最大のポイントとしては、これまで無料としていたイベントを完全予約制と共に有償化としたことです。(バスや自家用車などに駐車場代は徴収していた)

イベントではシャトルバス運行や警備費、また現場スタッフなど多くの費用は村側の負担になっていました。渋滞・混雑を緩和してお客様がスムーズに入場・観覧できるようにするために、その価値を会場入場券と展望台入場券を有償化したのです。

そのため来場者は以前の3分の2から半数程度になったにも関わらず、イベント運営側の売上は2倍近くになりました。

多くの地域では来場者や観光客にお金を払ってもらうことが申し訳ないという考えがあります。しかしそれではいつまで経っても良いサービスは生まれません。お客様がお金を払ってでも行きたくなる場所・地域・イベントにしていくという発想や心意気が地域全体で必要なのです。

そういった意味では入域制限をし入場料を設けたことで、「それでも行きたい」というお客様を迎え入れることができ、先述のお客様の質がよくなったという声にも繋がっているのだと思います。

結果、ライトアップではお客様の人数は減らし、村側の負担を減らしながらも売上単価を上げることで売上額を増やすことに成功しました。

まだまだ山積みの課題

しかし、いつの時代もお客様は敏感です。

お客様満足度の向上という点ではまだまだ課題が多く残っています。

今後旅行客のメインとなっていく個人旅行客向けにブランド化しなければ、お客様から見放されたイベントとなってしまいます。

イベント後のアンケートで、

「家族や友人にこのイベントを勧めたいですか?」という問いに対し、まだ1-2割ほどが否定的な意見だったということを真摯に受け止める必要があります。

アジア人はインスタ映えする写真を撮ってSNSに上げることが依然人気ですが、文化や歴史、伝統など写真には映らない部分によりフォーカスしていく必要があります。

現に欧米人旅行客のイベント参加率は全体の2%にも満たず、彼らが参加したくなるようなイベントにできるかどうかも今後の重要な鍵となってきます。

まとめ

オーバーツーリズムは、大切な観光資源を失うリスクのある病気と言えるかもしれません。

この病気を放置してしまえば、受け入れ側の疲弊にはじまり、地域から人が離れてしまう、観光客の満足度の低下、など、何十年も積み上げてきた大切な信頼やブランドが失われてしまう危険があります。まさに諸悪の根源というわけです。

近年のインバウンド需要の爆発的な増加により、世界遺産・白川村でも慢性的なオーバーツーリズム問題が深刻化していました。そんな中、弊社は地域内外のメンバーを募り、健全な観光地経営に取り組むため新たな地域商社を立ち上げました。

合掌ホールディングス:https://gassho-holdings.co.jp/

健全な観光地経営とは、受け入れ先が主体性を持ち実現可能かつ持続可能なサービスに取り組むことによって形成されます。そのためには質と量のバランスがとても大切で、お客さまの満足度の原点には受け入れ側住民の幸福度があります。

弊社では、短期的な問題解決にフォーカスするだけではなく常に「お客様の満足度を高める」ことを受け入れ側の共通目的として、現状の問題を踏まえつつ、それらを抜本的に改善するための実現可能で持続可能なアプローチや現場オペレーションをデザインし直していきました。

具体的には、問題の根本原因を把握し、現実的な解決策を模索します。それから、お客様へのアンケートやリサーチ結果をデータとしてまとめた上で、シミュレーションを行い、問題が起きる原因を一つずつ解決していくというものです。この部分が重要なポイントで、最初の入り口を間違えると、あとはいくら努力しても間違った方向にしかいきません。

観光地経営はとにもかくにもチームプレイです。観光産業に由縁のある様々な事業者が連携し、また観光に携わらない方の意見も取り入れ、お客様の満足度向上のために主体性を持って取り組むことこそが重要であり、例えどれほど素晴らしいアイディアであっても、受け入れ側全体が当事者意識を持って取り組まなければ意味がありません。

今回のVol.2では、白川村のオーバーツーリズムの問題に対して、弊社が行なった解決策の具体的な内容や方法についてご紹介しましたが、結局のところ、改革をやりきる当事者の意識がもっとも重要であるのは明白です。そこで、Vol.3 では、その当事者意識や主体性をどのように引き出し、改革を進め継続していくべきか、について書いていきます。

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September 24, 2020 at 08:51AM
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