2021年6月11日に発売されるNintendo Switch用『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』は、プログラムをするのに必要な考えかたや仕組みを、実際にゲームを作りながら学べるソフト。任天堂の開発室から生まれたというちょっと風変わりなこのソフトを、自身もゲーム開発に取り組んでいるライターの戸塚伎一がプレイ。その使い心地を検証してもらった。
『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』ニンテンドーeショップページ「僕には無理なんだよ……」と諦めるその前に!
テレビゲーム、ひとりで作ったことがありますか?
公立小学校でプログラミング授業が必修化され、“インディ―ゲーム”が注目される令和のご時世。作ろうと思えば作れる環境は昭和や平成よりもはるかに整備されているはずなのに、それでもゲーム制作は「一部の“能力者”だけができる芸当」とのイメージが根強く残っている印象を受けます。
「ぱっと見、難しそうだから手を出せない」
「基礎学習時の、地味で面倒な作業の繰り返しに飽きた」
「そもそも市販品より明らかに劣る内容のゲームをわざわざ作る必要性を感じない」
何だかんだで障壁になっているのは、こうした初歩段階のつまずきポイントでしょう。ひょっとしたら“ある程度しょうがないもの”として残しておくことでうまく回っている面もあるのかもしれませんが「ここが払拭されれば、より多くのゲームファンのクリエイティビティが解放されるはず」との希望も捨てきれません。
『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』はまさにそこに踏み込んだ、“掟破り”なゲームプログラミング体験ソフト。言うなれば、自分でゲームを作るという目的のもとプログラミングを一から学習する際、もっとも地味で根気がいる部分を抜き出してエンターテインメント化した、近年の任天堂らしいアプローチのタイトルです。
幸いにして(?)ゲームプログラミングの経験が本当に一度もない方は、この記事をもう読むのをやめ、ソフトを入手してゲーム内ナビゲーションの言われるがままに操作することをおすすめします。タイトルに「はじめて」とついているように、前情報や先入観なしに触れることで、ゲーム作りに必要な知識や考え方が自然に身につくからです。
というわけで、以下はゲーム制作に興味があり何らかのツール・手段を試してみたものの、どうもうまくいかなくてやめてしまった人に向けた、ファーストインプレッション・リポートです。「こんな感じだったら、もう一度だけやってみようかな……」と思っていただければ幸いです!
ユーザーフレンドリー&シナスタジアなプログラミング体験
本作最大の特徴は、“ナビつきレッスン”モードを進めるうちに、Nintendo Switchでプレイ可能な、なかなかちゃんとしたテレビゲーム……基本的に3D空間を舞台にしたものを何本も作れてしまう点。串ならぬ“タグ打ち三年”のような下積み期間を経ることなく、ゲーム好きとして理解しやすい形の成果を短期集中的に上げられるのは、大きなモチベーションになります。
同モードは“ボブ博士”と呼ばれる、青くて丸いキャラクターの指示通りに操作することで進行します。
「これこれこういう手順で〇〇というノードン(後述)をプログラム画面に出現させて、この位置に配置してください」
「このノードンと、このノードンのここのポートをワイヤーでつないでください」
などと事細かに説明してくれるので、始めたばかりでも迷うことがありません。さらに言えば、指示と大きくズレた操作ができないよう、各場面ごとに制限がかかっています。極端な話、指示内容をよく理解していなくても、反応がある操作の総当たりで“正解”を導き出せるのです。
それってプログラム学習と呼べないのでは? と思うかもしれませんが、このくり返しによってプログラミングの理解が進む仕掛けが、本作には施されています。
プログラムの構成要素である“ノードン”には、それぞれに特徴的な見ためや音声(ポケモンの鳴き声のようなもの)が設定されています。登場時には自身の役目を簡潔に説明するセリフを喋ることもあり、同じノードンを使えば使うほど愛着が増していきます。つまり、ノードンというキャラクターで表現されたプログラムの機能のひとまとまりを、義務感ではなく愛着心で覚えられるというわけです。ディスプレイに映し出される範囲・角度を指定できる“ゲーム画面ノードン”はチャラいメディア業界人のような感じ、指定した形状・範囲に何か別の物体が重なっているかを検知する“さわっているセンサーノードン”は神経質で臆病な感じ……といった共感覚的な理解を促す性格づけの絶妙さは、数々の人気オリジナルキャラクターを抱えている任天堂ならではといったところでしょうか。
さりげない“ハードル上げ”がユーザーを高みに上げる
表面的なとっつきやすさのみならず、各ノードンをより実践的に使用できるようになるための工夫も充実しています。
ひとつのレッスンはだいたい7〜10ステップ構成。最終ステップが完了するごとにゲームが1本できるわけですが、つきのレッスンに進む前に“チェックポイント”と呼ばれる復習問題に挑む必要があります。問題は5問ずつ。操作できるノードンの種類が絞り込まれた詰め将棋的なパズルで、瞬時にクリアーできるものもあれば、出題内容が抽象的過ぎて、どうすればいいか、じっくり考える必要があるものまでさまざまです。
パズルがクリアできずに、一定時間が経過すると、指定の“ノードンガイド”を参照することをソフト側がおすすめしてきます。「いいや、どれだけ時間がかかっても自力でクリアーしてやる!」と思えば無視してもよいのですが、まるで糸口が見つからなければ素直に従うしかありません。
ノードンガイドは、レッスン中に新しいノードンが登場するごとに項目が追加されていく機能解説集。ユーザーが直接操作する形でノードンの役割を学べる、リファレンスとは別立てのユーザーサポートコンテンツです。ガイド中、当該問題のヒントがそれとなく……どころか答えそのものがガッツリ出てくるのにちょっと笑ってしまいますが、ゲームプログラミングの経験が生半可にあるユーザーほど「だいたいわかるからいいよ」とスルーしがちな機能解説系コンテンツに、ゲームプレイ上の必然(=チェックポイントをクリアーしないとつぎのレッスンに進めない)として誘導する本作の構成は、地味ながら見事です。
さらに地味ですが“レッスンが進むごとにボブ博士の指示が徐々に雑になる”という点も見逃せません。口調が悪くなるのではなく、すでに何度も行ってきた操作の手順説明が簡潔になっていくのです。説明がシンプルになった直後は「えーとどうやるんだっけ」と戸惑うわけですが(前述の通り、指示と関係ない操作は制限されているので大ハマりはしません)、何度かくり返すうちに指先が覚え、スイスイ操作できるようになります。ハードルの上がりかたがちょっとずつなので何とか対応できる、それをくり返しているうちに高度な操作が自分のものになっている……というわけです。こうした些細な成功体験の積み重ねが、“オリジナルゲームの制作”という一大目標に向かう意志を後押ししてくれるのです。
改造→オリジナル制作→公開の筋道もクッキリ見える!
“ナビつきレッスン”モードで完成したゲームのプログラムは“ゲーム一覧”メニューに登録されます。レッスン中はボブ博士が指示した通りにしか組めなかったのですが(※各レッスンの最終ステップで、キャラクターの色など一部の表層要素を任意に変更することだけは可能)、“フリープログラミング”モードからそれらを開くと、プログラムの中身を自由に変更できます。“ありものの改造はオリジナルゲーム制作の近道”ということで、まずはゲーム内ギミックの挙動やフィールド構成、あるいはルールそのものを自由にアレンジしてみましょう。その際には、元のゲームプログラムをコピーしたものを“改造用”として使用することで、いちからのやり直しもスムーズにいきます。
改造である程度コツをつかんだら、画面に何もないまっさらな状態からプログラムを組むこと(新規作成)にも挑戦しましょう。何もない世界に自分が配置したものが現われ、徐々に世界の“ことわり”ができていく感覚は、ゲーム画面とプログラム画面(ゲームのウラガワ)をいつでも瞬時に切り替えられる本作だからこそ、よりダイレクトに味わえます。
完成したゲームを気軽に公開できるのもよいところ。自信がある作品はインターネット上に一般公開、内輪で盛り上がる用の作品はローカル通信で受け渡し……など、目的に合わせた共有法を選べます(※インターネット経由のやりとりはNintendo Switch Onlineに加入する必要あり)。ほかのユーザーが作ったプログラムの改造や、改造後の再公開も可能とのことで、一般公開作品群はなかなかカオスな状態になりそうですが、各ユーザーがそれぞれの目的で切磋琢磨しあうことで、プログラミングの意識や技術が底上げされるのは間違いありません。
初学者向けに徹した作りにとどまらず、その先のステージの道筋もちゃんと用意されている『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』。新たな趣味として始めるのはもちろん、学び直しの第一歩としてもおススメですよ!
からの記事と詳細 ( Switch『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』レビュー。プログラムをエンタメ化した、誰でも初歩を学べる&学び直しに最適なデザイン - ファミ通.com )
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