リオネル・メッシがバルセロナから、セルヒオ・ラモスがレアル・マドリーから去っていった。
2021−22シーズンのリーガエスパニョーラが開幕した。アイコン的な選手が不在となり、どこか物悲しさが漂う一方で、観客動員の規制を緩和し始めているスペインでは徐々に活気が取り戻されてきている。
今季のラ・リーガでは、久保建英(マジョルカ)が1部で、岡崎慎司(カルタヘナ)と柴崎岳(レガネス)が2部で戦っている。現在、日本と日本人選手はどのような立ち位置なのかーー。ラ・リーガ国際部門のイバン・コディーナ氏に話を聞いた。
■過剰な期待は禁物
ーーピピ(中井卓大)や久保に関しては、レアル・マドリーでプレーして欲しいと過剰に期待してしまうところがあります。
「我々は非常に高いレベルについて話しています。レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリー…。チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出場するようなチームでは、厳しい競争があります。ワールドクラスの選手でさえ、苦しんでいます。例えば、エデン・アザール。数年前、彼はプレミアリーグのベストプレーヤーでした。最近、少しずつ調子を取り戻していますが、まだチェルシーで見せていたようなプレーは披露できていません」
「例としてアザールを挙げましたが、競争は激しいのです。ラ・リーガのチームでは、厳しい競争があります。タケもマジョルカでポジション争いがあります。当然、より重要なクラブ、ビッグクラブで日本の選手がプレーしていれば、満足感や誇りを感じられるでしょう。しかし、日本の選手に限らず、全世界の選手、特にアジアの選手はピッチ外でも適応の難しさがありますから、ラ・リーガでプレーすること自体が高く評価されるべきでしょう」
ーー以前のインタビューで、スペイン国外のマーケットの話がありました。6年ほど前には、収入の85%がスペイン国内からのものだったということでした。
「5年以上前に遡れば、国外のマーケットに目を向けているのは2、3クラブでした。現在は、ラ・リーガの協力もあり、大半のクラブがグローバル戦略を採り入れています。その目的は全世界のメディアの関心を惹きつけることと、認知の獲得、ファンの獲得です。そして、可能であれば、(テレビ)視聴数の増加や収入の増益です」
「昨年のインタビューで話しましたが、5年前、ラ・リーガのチームの収入に関しては、平均すると85%がスペイン国内からの収入でした。現在の正確なデータは今手元にありませんが、収入に関して、国外からの割合は確実にアップしています。いま、ラ・リーガ、そして各クラブが国際戦略を採っていて、エンゲージメントや認知を獲得するために尽力しています。例としては、先日、マジョルカが日本企業とのスポンサー契約を発表しました。それは以前であれば非常に難しいことでした。各チームのユニフォームの胸スポンサーにおいては、スペイン国内だけのものというのは現在ほとんどありません。また、ラ・リーガとCVCとの契約が発表されたように、ラ・リーガと各クラブは連携して成長していかなければいけません。プレミアリーグ、ブンデスリーガ、他国のリーグ戦と競争するために、です。そのためには、スペイン国内だけではなく、国外を見なければなりません」
■CVCとの大型契約
ーーそのCVCファンドとの契約についてです。長期の契約でもあり、バルセロナ、レアル・マドリーを含めた複数クラブは反対しています。それをどのように考えていますか?
「ラ・リーガとしては、正しい決断だったと思います。大きな契約ですし、我々はラ・リーガ全体のことを考えなければいけません。すべてのクラブのことを、です。この合意は国際化の助力になりますし、各クラブのストラクチャーの内側の部分、例えばスタジアムやオフィスの改築などをサポートすることにもつながります。確かに、長期の契約です。最も重要なのは、オーディオビジュアルの権利だと思います。オーディオビジュアルの権利は、今後大きくなるかもしれません。ただ、我々が負担するのは、およそ10%です。長期契約ですが、大きなお金が動きます。こういった契約は、銀行とは結べません。こういう局面では、ある部分を譲らなければいけません」
「私は的確な判断だったと確信しています。ラ・リーガの全クラブの成長の助けになってくれるはずです。確かに、複数クラブは反対していました。しかし、我々は全体の利益を考えなければいけません。クラブによっては、異なる収益構造を有しています。ですが、彼らが将来的に意見を変えることを信じています。1部と2部の38クラブが賛意を示しました。それはプロジェクトが支持されている証です」
ーーテレビ放映権に関して、レアル・マドリーやバルセロナとラ・リーガに意見の相違があるように思います。
「確かに、テレビ放映権の価値は上がるかもしれません。CVCは今回の契約で我々に対して前払いをしている形ですから、定められたパーセンテージで彼らには今後収益が上がります。それでも、我々はこの契約が最善の選択肢だったと考えています。ラ・リーガのクラブは国際的に発展してきていますし、またパンデミックの影響を忘れてはいけません。ラ・リーガのクラブは、本来あるべき収入がないために、(それを補うための)お金が必要になっています。そのため、この機会を生かそうと考えました」
ーーテレビ放映権のテーマですが、OTT(オーバー・ザ・トップ/インターネット回線で行われるコンテンツ配信サービス)の可能性については、どのようにお考えでしょうか?
「OTT(オーバー・ザ・トップ)はすでに現実的な可能性です。我々は、いくつかのことを知っておかなければいけません。まず、フットボールの世界で、消費の仕方が変わってきているということ。とりわけ、新たな世代の人たちは、コンテンツへのアクセスを手軽にできないとストレスを感じてしまいます。テレビ、パソコン、タブレット、スマホ…。いずれにせよ、リアルタイムで、自分が観たいものを観るという選択肢と快適さを大事にします。その意味で、OTTは素晴らしいのです。世界はその方向に向かっていくでしょう」
「それは現存のテレビが消えていくということではありません。しかし、ファンや視聴者の傾向・必要性に適応していかなければいけません。新しいトレンドは何か、エンゲージメントを上げるためには何をすべきか…。今後2年〜3年、あるいは5年くらいを見て、ベストの方法は何かを考えています。現在、すべての物事が以前よりスピーディに変化しています。準備ができていなければいけません。Netflix(ネットフリックス)をはじめ、新しいプレーヤーが出てきています。あるいは、競合になりますが、NBAやプレミアリーグからも、我々は学び、自分たちのコンテンツにアクセスしやすくしなければいけません」
ーーなかには、そういった変化に適応できない人もいるかもしれません。
「そうですね。なので、伝統的なメディアも残っていくと思います。例えば、私は初めてスマートフォンを手にした時、『これは自分に使いこなせるのか?』と思いました。しかし、今は容易に使いこなせています。使うことに慣れたからです。何でもそうですが、最初は困難が伴います。適応の時期を経て、良くなっていくと思います」
ーー我々は現在スマホに依存しています。欧州スーパーリーグ構想が浮上した時、私はフットボールの世界でアマゾンやネットフリックスと戦っていく必要性が生じると感じました。
「先ほどの話にもなりますが、我々は常に何が最適かを考えています。ファンが求めているものを考えているのです。その中で、どの選択肢がファンに届くかを考慮します」
「欧州スーパーリーグは別の話です。レアル・マドリーの会長が、また複数クラブの会長が、変化が必要だと考えました。国内リーグではなく、ヨーロッパで国際大会を開催しようと考えたのです。それはペレス会長の意見ですが、我々ラ・リーガは支持していません。しかし、そのことは変化や発展を認めないという意味しません。ひとつは、ファンに届ける方法を考えること。もうひとつは、スーパーリーグ構想のように、ファンが魅力を感じるプロジェクトを提示すること。これらは、別物なのです」
■日本人選手の価値
ーー話を少し戻させてください。日本人の選手についてです。乾貴士の活躍があり、久保がインパクトを残しました。そこで、ラ・リーガの人気が上がったと思います。
「そうですね。私は、いろいろな要素が絡んだと考えています。これまで多くの日本人選手がスペインでプレーしました。もちろん、ラ・リーガに辿り着き、試合に出ることができれば、一つの成功だと言えますが、最初にチームの主役になれるような活躍をしたのは乾でしょう。それから、高いレベルの日本人選手が来るようになりました。その間、日本のサッカーのレベルは上がっていきました。それだけではなく、『DAZN』や『WOWOW』でラ・リーガが放映され、多くのファンに届いたのだと思います。HISやソニーバンクとのスポンサー契約を結ぶことができましたし、スポーツナビとの合意やJリーグとの提携がありました。LINEやTwitterで日本語版のアカウントを作るなどしてソーシャルメディアの強化も行いましたし、オクタビ・アノロ氏やギジェルモ・ペレス氏といった駐在員の派遣を検討してきました。そうして、我々の戦略は確かなものになっていきました。そして、ビッグクラブだけではなく、複数クラブが日本語版のソーシャルメディアのアカウントを作るなど、日本を意識するようになったのです。そういった多くの要素が、ラ・リーガを世界に届ける、日本に届ける力になっていると思います」
ーー例えば、ベティスの試合で、時々、電光掲示板に日本語のメッセージが流れると驚きます。
「ベティスのケースで言えば、乾を獲得した時、入団会見を東京で行いました。それは異例のことでした。そして、ベティスは日本語版のTwitterのアカウントを作ったのですが、一夜にして1万人以上のフォロワーを獲得しました。ベティスは一晩で多くのファンを獲得したわけですが、その背景にはロングスパンの仕事があります。ベティスは乾が移籍した後も働き続けています。日本人選手を獲得して終わり、ではないのです。長いスパンでのプロジェクトを掲げ、日本の選手がいなくなったとしても、ファンとインタラクティブに交流して、関係を構築する必要があります。我々は、その観点で、非常に成長しました。我々にとって、日本は重要な市場です。アジアにおいてだけではなく、グローバルな意味合いで、です」
ーー久保が所属するマジョルカは、ソーシャルメディアを非常にうまく使っている印象です。”タケチューブ”と呼ばれるYoutubeも人気です。
「タケチューブのことは知っていますよ!タケに関してもそうですが、その他の選手を含め、ソーシャルメディアを使ったり、アクティビティを行ったり、マジョルカは非常に良い仕事をしています。私は彼らとも頻繁にコンタクトを取っており、今シーズン、どのような方法で動いていくかを把握しています。マジョルカ、ラ・リーガ、タケ、スポンサーの方々、全員が一つの方向に向かっていき、市場における成長を目指していきたいです」
ーー最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
「そうですね。我々を応援し続けていただければと思います。ラ・リーガ、スペインのクラブ、それを届けられるように尽力していきます。スペインの文化、街、そういったものをより深く知るためにも、ラ・リーガとファンが接近するのは素晴らしい方法だと考えています。現在はコロナ禍で難しい状況ですが、前を向いて行かなければいけません。これを乗り越えたら、再び物理的にも近づけると思っています。ガンバリマショウ!」
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