任天堂の新型「スイッチ」の発表時、すでに競合製品では一般的な4K映像への対応がなかったことで驚きが広がった。最も困惑したのは、任天堂から提供されたソフトウエアのキットを使って4K対応商品を開発してきた多くのゲーム開発者だろう。
ゲーム会社11社の社員らは匿名を条件に、4Kに対応するゲームの開発キットを使ったソフトの開発中であることを明らかにした。同キットの提供先は大手から小規模のメーカーまで多岐にわたっており、その中にはこれまで家庭用ゲーム機向けのゲームを作ったことがない米 ジンガも含まれているという。
10月8日に発売される新型スイッチは有機ELパネルを採用し、ディスプレーのサイズも大きくなった。税込み価格は3万7980円で、現行機より約5000円高くなる。
しかし、事情に詳しい関係者によると4K対応モデルの発売は早くても来年後半以降になる見通しだという。競合企業の株価が上昇するなかで、ゲーム機の映像の解像度ではライバル製品に見劣りする任天堂の株価は、年初から20%下落している。
ブルームバーグが電子メールで送付した4K対応の開発キットに関する複数の質問に対し、任天堂は29日に「お問い合わせいただいた内容は、事実ではありません」と回答。質問のどの部分に対する回答だったかについての言及はなかった。
ブルームバーグの報道を受けて任天堂は30日午前、広報・IR用ツイッターアカウントを通じて記事の内容は事実ではないとし、10月8日に発売予定の有機ELモデル以外に新たなモデルの計画はないとの 見解を示した。
ブルームバーグは1年以上前から新型スイッチの発売時期や価格帯、有機ELの採用などについて報じていた。今年3月には、4K対応を可能にする処理能力の高い米エヌビディア製の新しいチップが使われる 予定と伝えたが、これは実現には至らなかった。エヌビディアはコメントを控えた。
部品不足が影響か
いつ計画が変更されたのかは不透明だが、関係者の1人は匿名を条件に、変更の背景には新型コロナウイルスの感染拡大による部品不足があると指摘する。同社は7月、有機ELモデルの発売後に他のモデルを発売することは現時点で計画していないとのコメントを 発表している。
任天堂は7月の新型スイッチの発表前にすでにゲーム会社に4K用の開発キットを配布しており、高解像度に対応するゲームの開発を依頼していた。一般的に開発キットは制作の過程でゲームのテスト用として用いられる。
スイッチ用の開発キットは、ソフトウエアの欠陥を検証するためにメモリーを余分に搭載していたりパソコンとの接続のための端子が設けられていたりする以外は、一般向けに販売されているゲーム機と大差はない。旧型の開発キットの出力解像度が一般向けに販売されているものと同様の1080pだったのに対し、新型の開発キットは4Kの解像度となっている。
新型スイッチが4Kに対応していないため、すでに対応している マイクロソフトの「Xbox」シリーズXや ソニーグループの「プレイステーション5」と比較するとスペック面では劣る。2017年の発売以降スイッチの販売は好調で新型モデルの抽選予約も活況を呈しているが、今後はライバル機との熾烈(しれつ)な競争に直面することになる。
ゲーム会社関係者は、任天堂の4K対応モデル投入時期について推測することは避けたが、来年後半かそれ以降の発売に期待を示す。ジンガは先月、年内の発売を予定していたスイッチとスマートフォン向けの「スター・ウォーズ」のゲームの発売を22年まで延期すると発表している。
労力無駄になるリスク
任天堂は過去に技術面や事業戦略面の理由によりハードウエアの商品化計画を撤回したこともあり、4K対応スイッチの発売を見送る可能性もまだ残っている。しかし4K対応ソフトの開発に取り組んできたゲーム会社にとっては、発売が見送られればこれまでの労力が無駄になるリスクもある。複数のゲーム会社幹部は、もし発売が撤回されれば任天堂に対する信頼を損なうことになると述べた。
(6段落に報道内容に対する任天堂のツイートを追加します)
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