Saturday, December 26, 2020

必要十分な性能のキーボード一体型PC「Raspberry Pi 400」は、“マイコン”の再来だ:製品レヴュー - WIRED.jp

キーボードを内蔵した新しい「Raspberry Pi 400」は、1980年代のマイコンをほうふつとさせる。使わないときには引き出しにしまい、移動時にはバッグに入れられる小型のフル機能デスクトップPCは、まさに「マイクロコンピューター」だ。

それでいて、価格は単品なら70ポンド(日本では8,750円)で、モニター以外のすべてが揃う「Raspberry Pi 400 キット」も、95ポンド(同12,500円)である。

2019年に登場したラズベリーパイ財団のシングルボードコンピューター「Raspberry Pi 4」は見事なマシンだった。そして、この最も強力なPiの成功は、サーヴァークラスターや組み込みシステム向けに最近発売された「Raspberry Pi Compute Module 4」によって確固たるものになった。そして今回、Pi 4をベースにしたデスクトップ向けPCが登場したわけだ。

キットの中身は?

Pi 400には単品購入とキット購入の選択肢がある。キットには、Raspberry Pi 400本体とUSBマウス、USB Type-Cの電源アダプター、「Raspberry Pi OS」が入ったmicroSDカード、Micro HDMIケーブル、そしてユーザーガイドブックが入っている。

こうした周辺機器をすべてもっている人は、本体のみでも購入可能だ。先に英国版と米国版が発売され、フランス向けのAZERTYキーボード版が続く。その他の言語は、2021年第1四半期の発売になる予定だ[編註:日本語キーボード版は2021年春に発売予定]。

3.5mmのヘッドフォン端子がない

Pi 400の内部には、Raspberry Pi 4をベースにしたシングルボードコンピューターが入っている。プロセッサーはクアッドコアの「Cortex-A72(Armv8)」で、メモリーは4GBのDDR4 RAMだ。

新しい筐体デザインでヒートスプレッダーを採用して冷却効率が上がったことで、プロセッサー実行時の標準の電圧と周波数を上げることが可能になった。Pi 400はクロック周波数が1.8GHzで、シングルボードコンピューターであるPi 4の1.5GHzより高速化している。

Pi 400の筐体に組み込まれているキーボードは、19年からRaspberry Piのデスクトップキットに同梱されている通称「チクレットキーボード」とほぼ同じだ。デザインはアップルのものほど洗練されていないが、長時間使える快適さと、タッチタイピングが可能な大きさを備える。

背面にはUSB 3.0ポートが2個、USB 2.0ポートが1個、Micro HDMIポートが2個(4Kディスプレイをふたつまで接続可能)、Gigabit Ethernet対応のLANポートが1個、microSDカードスロットが1個(microSDカードをハードディスク代わりに使う)、Raspberry PiではおなじみのGPIOポート(汎用入出力ポート)1個が並ぶ。

40ピンのGPIOポートは、サウンドカードからロボットプロジェクトまでさまざまな周辺機器の接続に利用できるが、Raspberry Piのシングルボードコンピューターにぴったり重なるGPIO接続の拡張カード「HAT」は、一体型のPi 400だと使いづらい。また、カメラとディスプレイに対応したMIPIポートも中にあるが、利用はできない。

組み込みシステムやプロジェクトの開発のためなら、おそらく通常のPi 4が最良の選択肢だろう。しかし、デスクトップPCとして使うなら今回のキーボード一体型は便利だし、この形状から生まれる堅牢性には価値がある。

Pi 400を日々のデスクトップPCとして使う際に最も欠けているのは、3.5mmのヘッドフォン端子だ。シングルボードコンピューターのPi 4は、このポートからステレオサウンドやコンポジットヴィデオを出力できる。

一方、Pi 400は標準の音声出力がHDMI経由になっており、テレビやモニターのスピーカーを使う。ヘッドフォンをつなぎたければ、USBかBluetoothで接続する必要があるのだ。なお、Pi 400は「Bluetooth 5.0 Bluetooth Low Energy(BLE)」のほか、2.5GHzと5GHzの「802.11ac」(Wi-Fi 5)による無線ネットワークに対応している。

低消費電力のノートPCに対抗できる性能

Pi 400は、デスクトップPCとしてきちんと機能する。中クラスのゲーミングPCにはかなわないが、安価な「Chromebook」に使われているようなエントリーレヴェルの「Intel Celeron」プロセッサーを搭載する低消費電力のノートPCには十分に対抗できるほどだ。

ベンチマークツールの「HardInfo」を使って、Pi 400のCPU性能をインテルの超低消費電力の「Bay Trail」(開発コード名)である「Celeron N2806」を搭載したノートPCと比較したところ、すべてのカテゴリーでPi 400が勝っていた(下の表を参照)。インテルの現行の超低消費電力「Whiskey Lake」(開発コード名)シリーズの「Celeron 4205U」あたりはもう少し強力で、今回使ったN2806の約3倍の性能を誇るが、それでもPi 400といい勝負だ。

The Raspberry Pi 400

Raspberry Pi 400のベンチマークを、Intel Celeron搭載機およびAMD Ryzen搭載機と比較。

GPUである「VideoCore VI」の力を最大限に発揮したい場合は、ヴィデオドライヴァーを変更できる。Raspberry Pi OSで「raspi-config」ツールを使ってGL(fake KMS)のデスクトップドライヴァーを有効にしたところ、HardInfoのGPUドローのベンチマークが1523から1602に上昇した。

OSの注意点

標準のオペレーティングシステム(OS)である「Raspberry Pi OS」は、32ビット版「Debian」ベースのLinuxディストリビューションだ。ソフトウェアリポジトリには、オフィスソフト(Open Office)からグラフィックス(GIMP)、写真処理(RawTherapee)、ゲームやエミュレーターまで、あらゆるものが揃っている。そしてコマンドラインからでもグラフィカル・インターフェイスからでも、簡単にインストールできる。

Linuxに慣れていて、外部リポジトリのパッケージ追加やソースからのビルドをしたい人は注意しよう。x86のCPUでコンパイルするようにつくられているソフトウェアは、ARMではビルドできない。ただ、両方に対応する開発者は増えてきている。

x86プラットフォームのWindowsやLinux、macOSを使い慣れている人は、いくつかの制限に直面するだろう。いちばん顕著なのは、NetflixやSpotify、Disney+といったサーヴィスが採用するストリーミングメディアのDRM規格「Widevine」に、Pi 400がそのままでは対応していない点だ。

幸い、これは「Chromium」ベースのブラウザーをカスタマイズしてインストールすることで対処できる。ただし、コンテンツ保護の規格とブラウザーは進化するので、たまに手動で更新する必要がある。

Raspberry Piのシステムでは、ほかにもたくさんのOSを使える。例えば、Pi 400には64ビット版「Ubuntu」をインストールできた。とはいえ性能面で問題があるので、OSの開発者が新しいハードウェア仕様に対応するまでしばらく待つことをおすすめする。

Raspberry Piの代替OSとしては、Ubuntuのほかに「Ubuntu MATE」「openSUSE」「Gentoo Linux」などが人気で、32ビット版、64ビット版、デスクトップ向け、サーヴァー向けとさまざまなものがある。エミュレーションシステムのフロントエンドなら「RetroPie」「Lakka」「RecalBox」がいずれも利用可能だ。エンターテインメントシステムなら、メディアセンター「Kodi」ベースの「OSMC」と「LibreELEC」が使える。

これらはいずれもLinuxベースだが、ARM向けに設計されたオリジナルOSの系統である「RISC OS」も、デスクトップ利用に対応している。また、昔からある「FreeBSD」が、無線ネットワークの制限があるとはいえRaspberry Piで動くほか、「Android」のフルオープンなフォークである「LineageOS」もRaspberry Piに対応している。

さらに「Windows 10 IoT Core」も、Raspberry Piの組み込みデヴァイス利用に正式に対応している。一方、デスクトップPC版のWindowsは、Raspberry Piに完全に対応したものはまだない。

ホームオフィスや子どものオンライン学習にも

Pi 400の後継機に望む点を少し挙げたい。ひとつはヘッドフォン端子の搭載で、これがあればさらによくなる。また、できれば筐体内部へのアクセスをもっと簡単にしてほしい。電源は「Fn」と「F10」でシャットダウンと起動ができるが、もっとわかりやすいスイッチがあったほうがいいだろう。これらを修正すれば、対象とするメインストリームのオーディエンスにもっと適した製品になる。

とはいえ、エントリーレヴェルのx86システムを性能で上回る、フル機能デスクトップPCのセットがこの価格で手に入ることを考えると、Raspberry Pi 400がお買い得であることに変わりはない。あとはモニターかテレビがあれば、ウェブ閲覧や仕事、メディアのストリーミングに対応できるのだ。

第2のホームオフィスを用意する必要がある場合や、子どものために宿題やオンライン学習の専用コンピューターを選ばなければならないときなど、この数カ月で増えた用途にもPi 400はとてもおすすめできる。こうした用途は、ラズベリーパイ財団が説明するPi 400の目的のひとつであり、実際に立派に実現されているのだ。

◎WIREDな点
低価格。すぐに起動できるシステム。移動や保管が簡単。無料ソフトウェアのライブラリーが充実。

△TIREDな点
3.5mmのヘッドフォン端子がない。

※『WIRED』によるRaspberry Piの関連記事はこちら

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