アスクルの社外取締役・社外監査役からなる「独立役員会」が7月23日に記者会見を開き、同社が親会社のヤフーと対立している件についての見解を発表した。ヤフーはこれまで、共同運営するECサイト「LOHACO」の譲渡を求めた他(現在は獲得の意思を否定)、8月2日の株主総会で岩田彰一郎社長の再任に反対票を投じると発表している。同会はこれに対し、「LOHACOの譲渡を選択肢に入れるならば、立て直し策の効果を検証してから議論すべき」「株主総会直前にトップの交代を求められても、現場は混乱し、かえって企業価値は下がる」などと指摘。ヤフーの手法は、上場企業に求められるガバナンスを無視していると批判した。
「ガバナンス無視」を批判
独立役員会は、元松下電器産業(現パナソニック)副社長でアスクル独立社外取締役の戸田一雄氏や、ファーストリテイリングの社外監査役なども兼任するアスクル独立社外監査役の安本隆晴氏ら6人が所属。取締役会の依頼に応じて、客観的な立場から助言を行っている。
同会は、ヤフーが(1)指名・報酬委員会や派遣取締役を通さず岩田社長個人に辞任を迫った点、(2)株主総会が1カ月後に迫ったタイミングで「トップを辞任させ、後任を好きに決めるように」と強引な要求をしてきた点、(3)LOHACO事業の譲渡について、利益相反取引に求められる透明性を確保せず、対等な立場で交渉しようとしなかった点――などを問題視している。
独立役員会の戸田氏は、会見で「ヤフーは『岩田社長が辞任を申し出ないなら、続投には反対する』と言っている。これは、普通の(上場企業の)マネジメントしては考えられない。アスクルは社外取締役を入れるなど、ガバナンスに対して一生懸命に取り組んできた。この流れを、いとも簡単に変えようとしている」と指摘。
「株主総会まで約1週間しかないが、ヤフーは時間切れを待っているようだ。約1週間後には、アスクルの経営体制が変わってしまうかもしれない。こうも簡単に(現体制は)終わってしまうのか」と危機感をあらわにし、「株主総会では、指名・報酬委員会が決定した取締役候補者(岩田社長を含む)を選任し、必要であれば、来年度に向けた指名・報酬委員会で、ヤフーの意見を踏まえながら(社長人事を)十分に議論すべきだ」と提言した。
弁護士は「支配株主としてのマナー不足」を指摘
会見には、同会のアドバイザーを務める松山遙弁護士も登壇。「支配株主は、自分の一声で子会社のガバナンスを変えられる力を持ち、思うままに議決権を行使することができる。社長の続投に反対票を投じるのは株主の権利だ。ただ、そういう力を持っている以上は、守るべきルールやマナーもある。指名・報酬委員会を通さず、1カ月前になって『トップには辞めてもらう。次のトップは好きに選んでほしい』と述べるのは、いかがなものか」と指摘した。
同じく久保利英明弁護士は、「日本市場では親会社・子会社の二重上場が認められているが、この状況で子会社は合理的なガバナンスを保てるのか。親会社が過半数の株式を持っているだけで、子会社の生殺与奪の権利を持つことは正しいのか。『過半数を持っているから何でもしていい』という考え方は適切ではなく、乱用的な買収者として見ることもできる。こうした親子上場の是非を(社会に)突き付けているのがヤフー対アスクルの事件だ」と一連の騒動を評した。
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対立の経緯は?
アスクルとヤフーは、2012年4月に資本・業務提携を締結。同年10月に、ECサイト「LOHACO」を共同でスタートした。15年にはヤフーによる出資比率(議決権ベース)を約45%に引き上げ、提携を強化していた。
だがヤフーは、LOHACO事業で赤字が続いていることや、アスクルの19年5月期の連結業績で、純利益が前年同期比90.7%減となる4億3400万円に低下したことを問題視。19年1月にLOHACO事業の譲渡を、6月には岩田社長の退陣を求めた。ヤフーは、アスクルが8月2日に開催予定の定時株主総会で、岩田社長の再任議案に反対票を投じる方針を固めている。
またヤフーは、LOHACOの譲渡を求めた理由について「第2位株主であるプラスの今泉公二社長が、取締役会で『LOHACO事業の赤字が業績に影響を与えているため、中止や譲渡を考えるべきではないか』と指摘したため」などと説明し、自社の利益のためではないとしていた。
これに対してアスクルは、「ヤフーから『LOHACOを直営店にしたい』との相談を受けた」などと暴露。「ヤフーが主体的にLOHACO事業の移管を画策していることは明白」とのコメントを発表し、両社は対立を深めていた。
残された時間は短い、策はあるのか?
こうした経緯を踏まえ、アスクルは独立役員会の助言のもと、資本・業務提携の解消に向けた協議をヤフーに数回申し入れている。だが、ヤフーは「関係の見直しについての協議は不要」と拒否を続けている。
アスクルは一定の条件を満たした場合、ヤフーに対して株式の売渡請求権を行使できるが、現時点で行使の有無は明らかにされていない。
また、プラスもヤフーの方針に賛同し、「岩田社長の再任に反対票を投じる」との声明を公表済みだ。ヤフーとプラスの議決権を合計すると過半数となるため、このままでは岩田社長の退任は避けられない。
二度にわたって会見を開き、ヤフーを批判したアスクルだが、8月2日の株主総会までに残された時間は短い。今後の方針に注目が集まるが、久保利弁護士は「独立役員会はアスクルとは独立した立場であり、意思決定は(岩田社長ら)業務執行部の問題。われわれは(業務執行部が)どう動くのが一番いいかを考えていくとしか言えない」と答えるにとどまった。起死回生に向け、アスクルの執行部はどんな手段を講じるのだろうか。
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2019-07-23 07:43:00Z
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1907/23/news106.html
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